この試合では上手くいかなかったが、自分をコントロールするためには、メンタルを「上げ過ぎない」ことがとても大事だ。

 上げ過ぎてしまうと前述のような不具合が起きやすいからだ。でもだからといって、フラットなままでも、良いパフォーマンスは出せない。

 高過ぎず低過ぎずパフォーマンスを一番発揮できる、「自分にとってベストなメンタルレベル」を掴んでおく。

 そして、試合前や本番直前、その一番良い状態に自分で作り上げていく。これはスポーツでなくとも、例えば仕事のプレゼンや就職などの面接でも同じかもしれない。

 僕の場合、試合前には必ず音楽を聴いてメンタルを作る。特に好きなアーティストはいないのだが、“聴く順番”にはこだわりがある。

 まず最初に、一度、メンタルを「上げる」。ケイティ・ペリー、ブルーノ・マーズ......といったアップテンポで激しめの洋楽を中心に“UP”用プレイリストを作ってあるので、それを聴いて、メンタルをフラットな状態から高ぶらせる。

 そして、一度しっかり上げたところで、それを抑え込むように「落ち着かせる」。“DOWN”用のプレイリストもあって、当然そちらは静かな穏やかな選曲。お気に入りは竹内まりやさんの『元気を出して』、『アメイジンググレイス』や『ゲド戦記』の主題歌『時の歌』あたりだ。ラグビーの試合前に『アメイジンググレイス』を聴いているのは僕くらいかもしれない。

 こうして心を整えることで“普段通り”でいやすくなるのだ。

「失敗したい」から「誰も知らない場所に」

 僕がハイランダーズに加入することにしたのも、実を言えば失敗したかったからだ。

「失敗しないと学べない」
「失敗をするために、今のこの環境から抜け出したい」

 そう思っていた。

 トヨタというチームに大きな不満があったわけではなくて、トヨタ、そして日本の整った環境に居続けようとしてしまう僕自身に不満があったのだ。

 現状、トヨタにいれば僕は100%試合に出ることができる。チームメイトとも長年一緒でお互い理解度も高いので、プレーしていてもストレスがない。専用のグラウンドやトレーニングルームも整備されて、クラブハウスもいつだってキレイだ。

 日本にいれば、探さなくとも美味しいご飯が食べられるし、友人ともすぐに会える、遊びにも行ける。僕にとって、これ以上、居心地のいい場所はないだろう。

 だが、そういう環境ではもうこれ以上、大きく失敗しない。思い切り失敗したくても、できない。