海外での生活事情や感情に寄り添うことが大切
その3:働きやすさと働きがいを実現するコミュニケーション
越境リモートワーカーを継続雇用・新規採用する際に大切なこととして、最後に、“コミュニケーション”を挙げます。政府が新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げたことなどをきっかけに、生産性やエンゲージメントなどの観点からリモートワークを出社勤務に戻す、企業の揺り戻し現象が起きています。これまで1週間に1回だった出社日を2、3日にするといった企業も増えていると聞きます。フルリモートワークが前提となる海外在住のメンバーは、普通の社員と比べて、リアルでのコミュニケーションのハードルが一気に上がります。このような環境下においては、1カ月・3カ月・半年といった期間ではなく、1年・3年といった中長期のスケジュールを視野に入れた意識的なコミュニケーションが重要になるでしょう。フルリモート下での就労は、意識をしていても視野や視座が、狭く、低くなりがちです。効率を重視した業務的なやり取りだけでなく、メンバーの海外での生活事情や感情に寄り添う雑談の時間、会社のビジョンや戦略などを定期的にアップデートし、自身の業務との接続を図る機会、個人のライフキャリアを起点としたキャリアパスなど、働きやすさと働きがいを最大化するコミュニケーション機会を、経営層や人事担当者、組織の上司(管理職など)は設計する必要があります。意図と目的を持った定期的なコミュニケーションで、海外在住者の高いパフォーマンスが生み出される環境や仕組みを整えましょう。
本稿では、「越境リモートワーカー登用のススメ」と題して、海外在住の人材を日本企業が継続雇用・新規採用する際のメリットや留意すべきポイントについてお伝えしました。
本稿をきっかけに、今回、10人以上の駐在妻・駐在夫の方々にお話を伺ったとともに、関連企業の経営者や人事部門の方々からも貴重なご意見をいただきました。ビジョンの実現に向けて、優秀な人材の力を必要とする日本の企業が、さまざまな知識やスキル、国際感覚や経験を持ちあわせた働く意欲に溢れる人材を継続雇用・新規採用することで、お互いの成長や発展を同時実現する――越境リモートワーカーの存在が社会全体のダイバーシティ&インクルージョン推進の一翼となり、それぞれの企業の成長・発展のきっかけとなれば幸いです。