あらゆる人が働く職場で、それぞれ認め合い、自信と誇りを持つために

性別・年齢といった違いだけではなく、仕事の現場ではさまざまな価値観やキャリアを持つ人が働いている。いまや、企業・団体が「ダイバーシティ&インクルージョン」を目指すのは当たり前だが、スローガンが一人歩きして実現がうまくなされない組織も多いようだ。福井県鯖江市に、あらゆる人が集い、働きやすさと働きがいを感じている職場がある――株式会社メガネトップのキングスター工場。世界一の品質を生むのは、機械ではなく、そこで働く人たちの志だ。「HRオンライン」が現地を訪れ、工場長の吉田和弘さん(株式会社メガネトップ 商品開発部 部長)に話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/HRオンライン)

キングスター工場で働く人の最高齢は71歳

 福井県鯖江市のキャッチコピーは「めがねのまちさばえ」――国内で流通するメガネフレームの95%以上が、人口約6万8000の鯖江市で生産されている。市内にはいくつものメガネ工場があるが、その中でも、株式会社メガネトップの自社工場「KING STAR(以下、キングスター工場)」は、日本のメガネ産業を語るうえで欠かせない存在だ。工場長の吉田和弘さん(商品開発部・部長)は現在61歳。その半生を「メガネ」とともに歩んできた。

株式会社メガネトップ 本社/静岡市葵区、設立/1980年5月、代表取締役社長/冨澤昌宏、従業員数/4740人(2022年3月末)、事業内容/メガネ、コンタクトレンズ、補聴器の販売、その他関連商品の販売

吉田 私は体育大学を出て、大阪の工業高校で体育教師を4年間勤めました。その後、建設業に従事したあと、29歳のときに福井県にUターンし、メガネ業界に携わりました。メガネやファッショングラスの企画・販売・輸出入を行う会社で海外ビジネスを10年ほど行い、その後、メガネトップに入社。当時の弊社は店舗数も従業員数も増え続ける状況で、新たな生産拠点を探しに、冨澤(昌三)会長(当時社長)と私で何度も海外出張しました。会長とはお互いの実家が近いこともあって、すっかり意気投合。会社の急成長に立ち合えたのは幸せでした。

 メガネトップが全国で展開する「眼鏡市場」は約1000店(2023年5月末現在)。ホームページには、「福井県・鯖江の自社工場でも商品の生産・検査・検品を行っており、丈夫で安心できる品質にとことんこだわっています」と記されている。つまり、吉田さんが率いるキングスター工場は、製販一体を実現するための心臓部であり、“安心できる品質”を生み出しているのが工場で働いている「人」にほかならない。

吉田 新卒採用については、私と総務課長で近隣学校の就職担当の方を訪ねたり、本社の人事部が積極的に採用活動を行ったりしています。福井県は教育水準が高く、名古屋にも近く、一方で、人件費が比較的安いので、さまざまな業種の企業が生産工場を建てたがります。ですから、有効求人倍率は日本一高く、求職者が働き口に困らない売り手市場地区になっています。他業種の採用活動も活発で、メガネ産業がなかなか選ばれない傾向が出てきています。ただ、キングスター工場へ見学に来ていただき、実際の職場を見ていただけば、ほとんどの方が入社を希望されます。ひとりの学生が見学する企業はだいたい3社くらい。私たちの工場がその3社の中に入れていただけるかどうかが大きいですね。

 キングスター工場の就労者は中途採用や非正規雇用も多く、工場全体において、女性従業員が目立っている。

吉田 男女比は4:6くらいで、女性の方が少し多いですね。現在(2023年5月)110名が勤務していて、正社員は4割ほど。時短勤務など、ご自身の生活スタイルに合わせて働いていらっしゃる方も多く在籍しています。もちろん、非正規の方の正社員への登用もあり、本社人事部と連携を取り、工場の環境に合わせた評価制度についても話し合いを進めています。また、メガネの生産は熟練の技が必要な緻密な仕事ですので、私たちの工場では例外的に定年を迎えた60歳以上の方々も再雇用制度や人材派遣会社を通じるなどして働いていただいております。