“越境リモートワーカー”新規採用&雇用継続の留意点

 日本の企業が海外在住者を継続雇用や新規採用する際に留意すべき点として、次の3つが考えられます。

その1:ビザや納税など、滞在国に応じた法的な対応
 ひとつ目は、居住国でのビザの必要有無です。外国籍労働者の就労規則については、国によってさまざまであり、私自身、過去にパートナーに帯同し、在住したオーストラリアとベトナムでは、付与されたビザや就労事情が大きく異なりました。就労を希望する海外移住予定の社員や海外在住の求職者がいる場合には、当該者が保有している、または保有する予定のビザで日本企業への就労が可能かどうか確認をしましょう。

 当該のビザで就労が可能だった場合、居住国での納税や社会保障などの対応が必要になるケースもあります。現地の労働局や会計事務所など専門家への相談・サポートを受けたうえで、適切な対応が必要になるでしょう。

 これらの対応に対して、外資系企業をはじめ、一部の先進的な企業においては、ビザ発給や就労支援などの帯同者サポートが備えられていますが、多くの日本企業では、まだそうした仕組みがない状況です。前例がないゆえに、就労を望む本人も対応にあたる人事担当者も分からないことが多く、諦めざるを得ないといった悲痛の声を耳にします。最近は、各国の駐在員パートナー(駐在妻・駐在夫)の就業可否をまとめた世界の就労マップ(*)なども公開され、少しずつ情報も増えてきているようですが、企業の人事部門が就労希望者に寄り添い、本人とともに課題解決していく姿勢が何よりも求められています。

* World map of mobile spouse and partner work authorisation など

その2:企業と個人のビジョンにつながるミッションの設計
 ビザや納税など、法的な対応以外に、「ミッション(業務内容)の設計」も重要な観点です。会社のビジョンに対する共感を確認したうえで、自律的に業務を進められる人材であれば、お互いの状況や業務の進捗度合いが見えにくいフルリモート下でも、タスクベースではなく、ミッションベースでの業務設計が有効でしょう。加えて、勤務時間などを厳密に管理するよりも、現地での生活や日本との時差を踏まえたミッションの設計(ないしは再設計)が就労者のみならず自組織のパフォーマンスを上げていきます。

 今回、インタビューをさせていただいたWarisの篠原さんは、移住後、日本との時差が13時間となるため、渡米後の業務の再設計を上司やチームメンバーとともに行なっていると話してくださいました。具体的には、新しい人員の補充やチームメンバーへの引き継ぎ、新たなミッションに向けたインプットなどです。また、日本プロポーザルマネジメント協会の西さんの場合、職務遂行にあたって必要となるスキルの研修機会を会社が提供してくれたそうです。

 こうした例を耳にすると、経営層や人事担当の方は「一部の社員だけを特別扱いできない」と思うかもしれませんが、社員一人ひとりのライフキャリアに対して真摯に向き合い、寄り添う姿勢こそが、「もしも、自分に何かあった際に会社が親身に寄り添ってくれるはず」といった、他社員の安心感やエンゲージメント向上にもつながるはずです。時差による勤務時間はもちろん、対象者の強み(CAN)や意志(WILL)を踏まえた柔軟なミッション設計が会社や職場において、プラスの影響となるのです。