人を楽しませることへ
情熱をかけたマーフィー夫妻

 マーフィ夫妻の身近にいた人間たちにも、ふたりの独特の暮らしぶりとその魅力を口で説明するのはなかなかむずかしいようである。花の香りもかぐわしい美しい庭からは、海の向こうにカンヌとその彼方の山々が見渡せた。ジェラルドのレコード・コレクションはまるで百科事典だった(バッハから最新のジャズまでなんでもあった)。

 おいしい御馳走は──周到な準備と給仕で──最高の味を味わうにふさわしい時と場所を選んでふるまわれた(たいていは庭の野菜と果物を添えたプロヴァンス料理だったが、ときにはクリーム状にしたコーンの上にポーチド・エッグを乗せたような典型的なアメリカ料理もでた)。

 ジェラルドは楽しくてたまらないといったふうに、お客を楽しませるためにせっせと情熱的なまでに気を配っていた。きりっとした美貌とウィットの持ち主のセーラは、じぶんの暮らしと友人の付き合いを心底から謳歌していた。三人の子どもたちも、独特のプライベートな世界で暮らす子どもらしく、大人たちのなかにしっくり馴染んでいた──ルノアールの絵から抜け出してきたような容貌と装いのオノーリア、逞しいスポーツマンのベイオス、はらはらさせられるほど繊細で頭の回転の速いところが「ジェラルド以上にジェラルド的な」パトリック──こういうことがぜんぶいっしょになって、そこに仲間入りできるのが特権のようにもかんじられるひとつの雰囲気を作りあげていたのである。

「マーフィ家のパーティには独自のリズムがあって、妙な雑音の入る余地がなかった」とギルバート・セルデスは話している。「ひとを楽しませることと他人たちに、ふたりは大変な情熱を傾けていた」。

 こういうことの中心にあったのがふたりの結婚生活そのもので、これはマーフィ夫妻が作りあげたもののなかで一番魅力的なものでもあった。ドス・パソスによれば、「その結婚は揺るぎないものだった」。「おたがいが、それはもうじつにみごとなまでに、補充し合い補強し合っていた」。