すると、彼はすぐに行動に移し、週末、スーパーのレジのそばに立ち、「すみません、ちょっと失礼します。私はいまカレーうどんを開発しているのですが、カレーうどんで困っていることはありますか?」と、来店されるお客様一人ひとりに声をかけ続けました。そして百数十人ものお客様の声をヒアリングすることができたのです。

「仮説力」があれば
「売れる」未来が見えてくる

 簡単なことのように見えますが、初対面の相手から「カレーうどん」のことをいきなり聞かれると、驚く方が大半です。面倒くさそうなリアクションをされるお客様もいらっしゃいます。ですが、彼の熱意に多くのお客様が応えてくださり、彼の努力の結果、いくつかのヒントを得ることができました。

 そのひとつが「食べるとき、つゆが服に飛んで汚れてしまう」という悩みでした。彼はそれを聞き、「なぜつゆが飛んでしまうのだろう」と考えました。

 マーケットを知れば知るほど、「売れる」未来が見えてくるのが「仮説力」です

 仮説とは、物事を考える際に「もっとも妥当だと考えられる仮の答え」のことを言います。この仮説を立てられるようになればなるほど、ヒット商品を生み出せるようになると思います。

 カレーうどんの場合であれば、「麺が長くなるほど大きく揺れ、つゆが飛びやすくなってしまうのではないか」と仮説を立てたのです。そして、その仮説から、麺の長さによるつゆの飛び跳ね方を検証し、通常より半分ぐらいの麺の長さにしました。

 また、商品開発の参考のために「カレーうどん」専門店に行ったとき、飛び跳ね防止用の紙エプロンを渡された経験から、「家で食べるときにもエプロンがあれば、カレーうどんのつゆが飛んで服が汚れてしまう悩みを解決できるのではないか」という考えに結びつき、「紙エプロン」をつけるアイデアが閃いたのです。

 そしてまた、お客様からいただいた声の中に「カレーのルウには大辛、中辛、甘口があるのに、カレーうどんの商品は辛さが1種類しかないのよね」「親の好みに合わせてカレーをつくると、子どもが食べられないので、どうしても甘口になってしまう」という悩みを見いだしました。

 確かに、同じ辛さの商品を親子で一緒に食べることはできません。そこで、「カレーうどん」の新商品には辛さ調整用のチリパウダーをつけることにしました。パウダーを入れなければ甘口、半分入れると中辛、1袋全部入れると辛口になる。辛いのが好きな人でもお子さんと一緒に食べられるアイデアにしたのです。

 彼が開発した「カレーうどん」は発売されるや、異例の大ヒット商品となったのです。

 その背景には、お客様の表情を直接感じ取り、リアルな意見を聞くという努力がありました。業者に頼んでお客様アンケートを取ったりするのではありません。実はこのような姿勢こそ、多くのバイヤーに足りない部分なのかなと思っています。

 大切なことは、「一次情報」であり、現地・現物・現実を知ること。これには、バイヤー本来の「お客様に喜んでもらえる商品をつくる」という強い「想い」があったからできたのだと思います。

「カレーうどん」というニッチなマーケットでも、「想い」を形にして、一点突破していくことができたのです。

 この彼のエピソードはバイヤー1年目のことです。

 ヒット商品を生み出すには長年の経験が必ずしも必要なわけではなく、「仮説力」「商品企画力と伝わる力」「商品への想い」という軸があれば、経験がないバイヤーでも「ヒットをつくる壁」を乗り越えることができるんだと確信しました。