歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。
直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身やおすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
歴史小説に没頭する日々
【前回】からの続き 『真田太平記』を読み終わると、すぐさま同じ古本屋に向かい、池波正太郎の作品を買い求めました。小学生にして池波正太郎に耽溺する日々の始まりです。
池波作品をひと通り読破すると、今度は町の小さな書店の棚にある他の著者の歴史小説に片っ端から手を出すようにもなりました。
司馬遼太郎、藤沢周平、山本周五郎、海音寺潮五郎、吉川英治、山田風太郎、陳舜臣、北方謙三、浅田次郎、白石一郎、津本陽、戸部新十郎、池宮彰一郎……。
挙げたらきりがありません。
おこづかいを歴史小説につぎ込む
古本屋はもとより、新刊書店でも目についた歴史小説の文庫本を購入。当時のこづかいのほとんどを歴史小説につぎ込むほどのハマりようです。
単行本は高価だったので、誕生日には新刊書を5冊くらいプレゼントしてもらっていました。
中学生になった頃からは、歴史小説だけでなく、祖父からもらった歴史の資料や歴史辞典まで読み漁るようになりました。
文献を求めて中学生が国会図書館へ
幸いなことに、実家の近くには「国立国会図書館 関西館」という、東京以外では唯一の国会図書館があります。
近所の書店や図書館で手に入る本では飽き足らず、専門的な文献を探して、国会図書館にもしばしば足を運んでいました。
その頃は、とにかく歴史の本をずっと読んでいたいという気持ちが強く、手元に歴史の本がないと、それだけで不安になったくらいです。【次回へ続く】
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。