歴史小説の主人公は、過去の歴史を案内してくれる水先案内人のようなもの。面白い・好きな案内人を見つけられれば、歴史の世界にどっぷりつかり、そこから人生に必要なさまざまなものを吸収できる。水先案内人が魅力的かどうかは、歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえる。
直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』
(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、歴史小説マニアの視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

直木賞作家が初めて読んだ歴史小説に学んだことPhoto: Adobe Stock

歴史の苦手意識を覆した歴史小説

【前回】からの続き 「はじめに」でも触れたように、「歴史」というと、どうしてもとっつきにくいとか、難しいといったイメージがあります。

小学生の私自身も、「歴史は年号を覚えていく退屈なものだ」と思い込んでいました。

ところが、『真田太平記』は、まったく違ったのです。小説には人間が描かれていて、歴史の中に人の息づかいを感じることができます。

意外な登場人物が好きになる

「墾田永年私財法」とか「武家諸法度」といった文字面だけを見ると無機質な印象がありますが、その裏には生々しい人間ドラマがあるという当たり前の事実に気づかされたのです。

もともと歴史的に有名な真田幸村の活躍を期待して読んだはずなのに、最終的に幸村の兄・真田信之が好きになったというのも意外な発見でした。

信之に惹かれたのは、一つに自分自身が長男で、身近にやんちゃな弟もいたため、共感する部分が大きかったのだと思います。

父子・弟とは別の陣営についたワケ

関ヶ原の戦いでは、父の真田昌幸と弟の幸村は豊臣方に属しましたが、信之は徳川方に属しました。

父と弟を自由にさせた一方で、自分は真田家を背負うという決断をしたのです。

幸村が大坂夏の陣で徳川軍を相手に命を落としたときの年齢は48歳。その後、信之は実に92歳まで生き続けています。

『真田太平記』に学んだこと

父も弟も妻も失い、たった1人で家を守るために数十年を生き抜いたわけです。

しかも、信之は一度隠居をしたにもかかわらず、後継者争いを解決するためにカムバックして藩政を執っています。

90歳まで必要とされて家を守り抜く姿が、私にはとても魅力的に感じられました。

「家を守るって大変なことなんだ」「生きるって大変だな」「自分も最後まで必要とされる人間でありたい」。小5ながらに、そんな感想を抱いたのです。【次回に続く】

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。