ミュータンス菌の退治よりも「食習慣」が大事

 虫歯の原因菌として一般的にも知られているのが、ミュータンス菌でしょう。しかし、それだけではありません。ビフィズス菌やアクチノマイセスといったさまざまな種類の細菌が、酸を出し虫歯の原因になります。「口内のほとんど全ての細菌が、酸を出して虫歯の原因となる」と主張する研究者もいます。口内の菌は常在菌であり、追い出すことはできず、共存するしかありません。

 虫歯菌と共存しながら虫歯予防をするには、食習慣の管理が重要になります。先ほど述べたようにダラダラと間食すると、歯の表面が溶け出した状態(脱灰)から修復(再石灰化)するチャンスが与えられません。

 つまり、虫歯予防のためには、間食をダラダラせずに時間を決めて短い時間で食べ切り、食後は虫歯になりにくいガムを噛んで唾液量を多くすることです。砂糖を含んだ食べ物の摂取量が多いと虫歯になりやすいと思われがちですが、「量」より「時間」の方が虫歯対策には大切なのです。とはいえ、間食を早食い・一気食いなんてするのは、のどに詰まって危険ですから、やめてくださいね。

「フッ化物」に匹敵する次世代の虫歯予防効果

 最後に、虫歯予防の最新情報をお伝えします。「フッ化物」は、歯の質を強くし虫歯になりにくい歯にする虫歯抵抗性を上げる物質で、最近は多くの歯磨き粉に含まれています。フッ化物が歯に浸透すると、ハイドロキシアパタイトよりも酸性になっても溶けにくい、フルオロアパタイトやフッ化ハイドロキシアパタイトとなります。この変化は、歯の表面が溶け出す(脱灰)のを抑えるだけではなく、修復(再石灰化)する作用を促進させます。また、細菌が酸を発生するのを抑える効果もあります。

 アメリカ歯科医師会では、フッ化物入り歯磨き粉使って、1日2回、2分間歯磨きすれば虫歯対策になると推奨しています。

 そして今年7月、フッ化物に匹敵する虫歯予防効果が明らかになりました。ポーランドのポズナン医科大学総合歯科学長の研究で、歯のエナメル質を構成する主成分であるハイドロキシアパタイト入りの歯磨き粉の虫歯予防効果が、フッ化物入りと同等であると発表されたのです。

 成人171人を対象として、「ハイドロキシアパタイト歯磨き粉」と「フッ化物歯磨き粉」を使って臨床試験を行ったところ、虫歯抑制効果は前者が89.3%、後者が87.4%という結果が出ました。

 フッ化物は基準を上回る過剰摂取をすると毒性影響を及ぼす恐れがあり、逆に歯にダメージを与え、白濁模様や褐色の色素沈着が見られる歯のフッ素症(班状歯)を引き起こす可能性があります。このため、フッ化物の使用に抵抗感を覚える人もいました。一方、ハイドロキシアパタイトにはこのような恐れがなく、安全性が確認されているので、フッ化物に代わる虫歯予防として解決策になるかもしれません。

 ただし、フッ化物は安価なのに対し、ハイドロキシアパタイトは高価なので、歯磨き粉が製品化されたときの価格は高額になるかもしれません。