山上被告が
旧統一教会問題を可視化した
――旧統一教会の問題が2022年からフォーカスされていますが、それまでの同教団をめぐる報道は「空白の30年」とも言われています。そんな状況の中でも鈴木エイトさんは地道な取り組みを続けていました。
鈴木エイト氏(以下、鈴木) 30年というのは、1992年の旧統一教会による合同結婚式から2022年までのことを指すと思うのですが、その期間中も、さまざまなトピックはありました。旧統一教会の問題を報じるメディアもなかったわけではないので、完全な空白でもないんです。ただ、第2次安倍政権の発足以降はその問題を追及する報道はほぼなくなって……。
そんな状況の中、山上徹也被告の事件が起き、旧統一教会問題に世間が注目するきっかけが生まれた。山上被告のやったことは許されることではありませんが、それによっていろいろなものが可視化されたのは事実です。
その上で、一つ心配があるんです。それは、「宗教2世」問題の報道が一気に過熱したことによって、「宗教2世」当事者が、無防備な状態で取材を受けざるを得なかったことです。
「宗教2世」に対する支援体制も相談体制もあまりないまま、「宗教2世」が社会にさらされることになった。それでも、世間の耳目が集まっているうちはいいんです。今後、「宗教2世」問題が下火になった時に、彼・彼女らには、今度は自分から世に、「宗教2世」問題を問うていく必要性が出てくる。そうなった時に、運動が継続できなくなるのではないかといった懸念を抱いています。
1968年、滋賀県生まれ。日本大学卒業。
――宗教2世が自らの苦しみや悲しみを表現する時に「言葉が見つからない」ということがしばしばあるそうです。事態が鎮静化した時、その壁が立ちはだかるかもしれない。
鈴木 そうですね。その点、今回の正木さんの著作『宗教2世サバイバルガイド』は良い本だと思いました。「宗教2世」が抱いている苦悩をこれほど幅広く言葉にしている本は稀有です。「宗教2世」に新たな言葉を与えられる内容になっている。
しかも、この本は「宗教2世」だけでなく、広く一般人にも響く処方箋に満ちています。「宗教2世」の問題といっても、その構造は、一般の人が悩んでいる親子関係や友人関係、組織人としての振る舞いの課題といったことと地続きなんだ、ということが表現されている。
――それを意図して書きました。また、たとえば宗教2世は「私の人生、一体何だったんだろう?」って絶望したりしますが、そういったところにも寄り添える内容にしようと心を砕きました。
鈴木 不本意な人生を歩んでいるという感覚は苦しいですよね。
宗教2世が「居場所」を持てる
社会を作るために必要な「葛藤」
鈴木 山上被告も、自分の本意ではない仕事に就いていると感じていた節があったようで、彼は厳密な「宗教2世」ではないにしても、そこの苦しみはほかの「宗教2世」と共通しますよね。
先日、関西に出張に行って、山上被告が暮らしてきた家などを回ってきました。なかにはボロボロの団地もあって、階段のステップは表面が剥がれていた。その生活環境を目にした時に、「彼(山上)は何を感じていたんだろう」と胸にせまるものがありました。
あくまでもこれは僕の想像ですが、彼は、「ここは僕が本来いるべき場所ではない」と、怒り、憤りを感じ、それをマグマのようにためていたのかもしれません。
――そういった時に、相談できる先があるといいですよね。
鈴木 実は、山上被告には相談機関に相談した形跡があったり、同じような境遇の2世とつながろうとした形跡があるんです。でも、うまくいかなかった。
――宗教2世もそうですが、山上被告のようなセカンド・ジェネレーションも包括的に救われる仕組み作りも大切ですね。
鈴木 正木さんも著作『宗教2世サバイバルガイド』で書かれていましたが、被害を訴えている「宗教2世」以外の、そのほかの、現役の「宗教2世」への目配せも外せません。そういう子たちが差別されることがないように、2世問題を語る必要もあります。
ただ、これを僕が言うと、「いや、お前のせいで『宗教2世』が偏見にさらされ、被害を受けてるんだ!」と言われるので、難しいです。
――鈴木エイトさんの著作『自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言』(小学館)の中で、爆笑問題の太田光さんがそのあたりの葛藤を吐露していましたね。
鈴木 太田さんは、その発言から「統一教会擁護派なのか」と疑われていました。彼は、十把ひとからげに「統一教会の信者は悪い奴」と見なすことに抵抗を示した。だから「擁護派か?」と聞かれて、「いやいや、それも難しい」と言い淀んだんです。かといって「擁護派ではない」と言えば、旧統一教会の末端信者を切り捨てることになってしまう。太田さんは、教団の中にいる人たちがみな「いたたまれない気持ち」になることを防ごうとしたと思うんです。こういった葛藤が大事だと思います。
山上被告が鈴木エイト氏に
送っていたメッセージとは
――鈴木エイトさんの著作『自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言』にも書かれていましたが、エイトさんは山上被告と以前、Twitterのダイレクトメッセージでやり取りをしていたそうですね。
鈴木 彼が僕に絶大な信頼を寄せてメッセージをくれたっていう話でもないんですけどね。聞きたいことがあったからメッセージをした、という感じで。ただ、このことを最初に山上の弁護人から聞いた時は、山上からのメッセージの中身がわからず、「もしかしたら僕宛てに事件を示唆する内容が送られてきたのでは?」「僕がそれをきちんと返していたら、事件を止められたのでは?」と想像が走ってしまって、すごく落ち込みました。
――でも、実際は「エイトさんの記事、これまで読んできました」といった趣旨のことが書いてあっただけだった。
鈴木 それで安堵したんです。ただ、今でも思うのは、山上被告には「居場所」が必要だったということです。『宗教2世サバイバルガイド』でも、ジャーナリストの江川紹子さんが「失敗もさらけ出せるような場」といったものの必要性を訴えていました。僕は、かつては2世問題を周知することばかりに力を割いていました。ですが、当事者がほんとうに求めているのは、相談相手や相談ができる場なんですよ。
正木さんの著作『宗教2世サバイバルガイド』では、「『希望』の反対語は『絶望』ではないと思います。絶望を分かち合うことができた先に、希望があるんです」という引用があります。山上被告のSNSを見ると、彼のキーワードが「絶望」だったことがわかります。「絶望」がたくさん出てくる。それこそ、その絶望を分かち合える場が、山上には必要だったのだと思います。そういったものを社会的に作っていく営みには、これからも関わっていきたいですね。
あと、2世問題とも絡めつつ、安倍元首相を銃撃した山上被告の「動機」にもやっぱり迫りたいですね。「犯人の動機を報じるべきではない」とか「背景を探るべきではない」といった言葉が昨今聞かれますが、今後二度とこういったことを起こさないためにはどうしたらいいか、というのは社会全体で考えていくべき問いです。
そして、そこに政治が絡んでいるのだから、しっかり暴いていきたい。あの銃撃事件は、決して山上被告の「思い込み」から起きたものではないんです。彼は事実として旧統一教会と政治のつながりを認識していた。この事実を追求すべきなんです。追撃すべき議員は残っています。これからも、そこを追っていきたいですね。