稲盛和夫氏は「経営の神様」と称賛された一方で、その経営哲学を巡って「カルト宗教だ」という厳しい批判もつきまとった。そんな「アンチ稲盛」の批判に対する答えと呼べる稲盛氏の言葉があったので、今回はそれについてご紹介したい。(イトモス研究所所長 小倉健一)
「宇宙の意志」を論じる稲盛哲学に
「カルト宗教」との批判も
稲盛和夫氏の経営哲学を巡っては、「カルト宗教だ」などといった批判が根強かったのも事実だ。また、稲盛氏が創業した京セラに対しても「京セラは、『狂セラ』だ」という揶揄(やゆ)が聞かれた。
確かに、自伝などを読むと、新興宗教「生長の家」の創始者である谷口雅春氏が書いた『生命の実相』を結核で病床に伏せっていたときに読んだと記されていたりする。
また、京セラのホームページにある経営哲学「京セラフィロソフィ」の解説には、「『宇宙の意志』と調和する心」と題して、次のような説明がある。
「世の中の現象を見ると、宇宙における物質の生成、生命の誕生、そしてその進化の過程は偶然の産物ではなく、そこには必然性があると考えざるを得ません」
「この世には、すべてのものを進化発展させていく流れがあります。これは『宇宙の意志』というべきものです。この『宇宙の意志』は、愛と誠と調和に満ち満ちています」
こうした稲盛哲学から、何か宗教めいたものを感じる人も多いだろう。
無給で行った日本航空(JAL)再建のときの強い使命感などにも、そういったものを感じる人がいるかもしれない。
稲盛氏への度重なるインタビューを基に書かれた、皆木和義著『稲盛和夫と中村天風」によれば、「稲盛和夫は、中村天風に心底から傾倒している」とある。
その中村天風師(大正時代に活躍した実業家出身の宗教者。東郷平八郎元帥が天風師から薫陶を受けている)は、「人の生命は宇宙の創造を司る宇宙霊と一体である」「人は進化の原則に従い、宇宙霊と共に創造の法則に順応する大使命を与えられているがためである。私は心から喜ぼう、この幸とこの恵みを!」というような教えを説く人物だ。天風師は、ヨガの聖者・カリアッパ師との「世紀のめぐりあい」で、大地をたたき、涙が止まらなくなる大感動の渦中で「魂の夜明け」を迎えたのだという。
慣れない言葉の連続に戸惑う人も多いだろうが、今以上に、戦後民主主義と呼ばれるような戦前の反省に立った時代にあっては、宗教めいた要素に対するアレルギーは大きかったようだ。稲盛氏もことあるごとに、批判を受けてきた。
稲盛氏が大切にした「利他の心」を一刀両断する批判や、マインドコントロールを仕掛けるカルト宗教の教祖と稲盛氏を同一視するような厳しい論調を取り上げよう。そして、そうした「アンチ稲盛」の批判に対する「答え」と呼べる稲盛氏の言葉も併せてご紹介したい。
稲盛氏はその言葉の中で、「心を美しくきれいにして、行いを正しくしていても、事業というのはなかなかうまくいきません」と語っている。自身の信条と相反するかのように聞こえるその言葉の真意とは何なのか。