経営者や著名人に圧倒的な信頼を得るインタビュアーの宮本恵理子さん。一瞬で相手の心をほぐし、信頼を得る宮本さんの聞く技術についてまとめた『行列のできるインタビュアーの聞く技術 相手の心をほぐすヒント88』では、相手の心に寄り添い、魅力を良さを引き出す宮本さん独自の技術をふんだんに盛り込みました。「聞く力を高めるには馬に学べ!」というアドバイスを受け、今回は今、起業家や経営者がこぞって通うホースコーチングに参戦。果たして「聞く力」と「馬」の間にどんな関係があるのでしょうか。「ホースコーチング」を通して見えてきた聞く力の高め方についてご紹介します。

聞く力を高めたいなら「馬」に学べ! 今話題の「ホースコーチング」が教えてくれた「聞く」ことの本質Photo: Adobe Stock 写真はイメージです

伝説の編集者が教えてくれた
知る人ぞ知るホースコーチング

「宮本さん、インタビューについて深く知りたいのなら、馬に教えてもらうのがいいですよ」

 馬……?

 思わず聞き返した相手は、出版エージェンシーのコルク代表で編集者の佐渡島庸平さんだった。「観察力」をテーマにした本(『観察力の鍛え方 一流のクリエーターは世界をどう見ているのか』)を出したばかりだった佐渡島さんに、インタビュー術について取材をしていた時のやりとりだ。

 いわく、馬との交流を通じて他者とのコミュニケーションやリーダーシップについて深く学べる「ホースコーチング」なるメソッドがあるという。なぜ佐渡島さんが私にこんな話をしたのかというと、インタビュアー兼ライターである私が、「聞く」という営みの本質について知りたがっていることを察知したからだろう。

 私は20年ほど前に雑誌の編集記者としてキャリアをスタートし、延べ1万人超の取材経験や書籍のブックライティングなどで培った学びをまとめた講座を、2年ほど前から主宰している。さらに、さまざまな立場で「聞く力」を発揮しているビジネスリーダーに「あなたの聞く技術を教えてください」とインタビューする勉強会も開催してきた(その内容の詳細については、拙著『行列のできるインタビュアーの聞く技術』をご覧ください)。

 拠点は北海道と、気軽に行ける距離ではない。しかし、多忙な佐渡島さんが何度も足を運び、知人を紹介していると聞き、気にならないはずはない。『行ってみましょう!』と目を輝かせる編集者とともに飛び立った(本記事は2022年3月の体験をまとめたものです)。

 向かった先は、札幌駅から30分ほどクルマを走らせた先にある「ピリカの丘牧場」

「ようこそ」と穏やかな笑顔で迎えてくれた女性は、この牧場でホースコーチングを提供するCOAS社長の小日向素子さん。ところどころに馬のモチーフが飾り付けられた室内で、温かいお茶と手作りクッキーをいただきながら、「ホースコーチングとは何か」という説明を聞く。

 一緒に参加したのは、『行列のできるインタビュアーの聞く技術』編集者の日野なおみさんほか、主にアートや文芸分野で活躍するライターの山内宏泰さん、人気エッセイストの岸田奈美さんという豪華なメンバー。それぞれの課題意識で「馬からの学び」に興味を持ち、雪残る牧場に集まったのだった。

聞く力を高めたいなら「馬」に学べ! 今話題の「ホースコーチング」が教えてくれた「聞く」ことの本質2022年3月、雪の積もる札幌郊外の馬場に集まった4人。左からライターの山内宏泰さん、編集者の日野なおみさん、中央にいるのは札幌のホースコーチング「COAS」小日向素子さん、エッセイストの岸田奈美さん、そして本記事の著者、宮本恵理子

 小日向さんによると、COASで提供するホースコーチングは、欧米発の馬を使ったセラピーや人材育成メソッドを独自のプログラムとして開発したもの。ホースコーチングの目的は、馬をコーチとして自己内省や行動変容を促進することで、米スタンフォード大学医学部や欧州のIMDビジネススクールなどでも導入されているそう。

 馬を使ったセラピーと聞いて、「乗馬」を思い浮かべたが、「馬には乗りません」と小日向さん。馬とのコミュニケーションを試みる中で、自分自身を深く知り、他者との関わり方やリーダーシップについて見つめ直す。それがホースコーチングでできることなのだと説明してくれた。

「馬は五感が豊かで、視野は350度と広く、人間よりはるかに優れた感性を持ちます。個体認識の方法が人とは異なり、その時々に受け取る感覚と反応を変える。いわば“鏡”のような師となって、私たちを内省に導いてくれます」

「ここでは、思考や言葉ではなく、感性を使って馬と向き合ってください。身体感覚を呼び覚まし、頭ではなく体で“自分を知る”時間を体験していただきます。それによって何を感じるか、どんな気づきを得られるかは、人によって異なります。そして、その気づきの意味を、何ヵ月、何年と経ってから『ああ、あれはこういうことなのか』と反芻できたという方もよくいます。私のことは下の名前で呼んでくださいね」

 素子さん自身のキャリアもユニークで興味深い。NTTや外資系企業でブランディングや新規事業開発に携わり、某グローバル企業で女性初・最年少のマーケティング部門責任者として活躍した後、「ちょっと疲れちゃって、自分を見つめ直したくて」と、この事業を始めたのだとか。

 国際資格EAGALAの認定ファシリテーターとして、これまで資生堂をはじめとする14社延べ1200人を迎えて、メソッドを提供してきた。素子さんのキャリアストーリーを3時間くらい聞きたい気持ちをグッと抑え、馬と向き合うことにした。