経営者や著名人に圧倒的な信頼を得るインタビュアーの宮本恵理子さん。一瞬で相手の心をほぐし、信頼を得る宮本さんの聞く技術についてまとめた新刊『行列のできるインタビュアーの聞く技術 相手の心をほぐすヒント88』では、相手の心に寄り添い、魅力を良さを引き出す宮本さん独自の技術をふんだんに盛り込みました。今回は、宮本さんが業界のキーパーソンと「聞く技術」をテーマに語り合ったオンラインイベント「聞く技術フェスティバル」の内容を紹介します。聞くフェス5回目のゲストにお招きしたのが、エール株式会社取締役の篠田真貴子さん。ベストセラー『LISTEN』の監修も手掛けた篠田さんにとって、「聞く」とは一体、どんなものなのでしょうか。(構成/高野歩)
宮本恵理子さん(以下、宮本) 今、ビジネス社会では、空前の「聞く」ブームが起きています。その火付け役でもある篠田さんは、「聞くプロ集団」が企業のコミュニケーションをサポートする会社、エールに参画されています。今日は、篠田さんが「聞く」に関して日々どんな発見をなさっているのか、うかがいたいと思います。
篠田真貴子さん(以下、篠田) コロナ禍によってコミュニケーションがオンライン上のリモートに移行し、社会が「聞く」ということに関心を寄せているという追い風もあるかもしれません。
宮本 企業の中で「聞く」というテーマが課題になってきている流れを、篠田さんはどう見ていらっしゃいますか?
篠田 二つの流れがあると思います。一つは、リモートワークに移った会社も、そうでない会社でも、働くみなさんが、友達や家族などに思うように会えないという事態を経験された。その中で、「コミュニケーションがうまく取れなくてどうしたらいいのか」と考える機会に直面した。「今までの自分のやり方とは違う方法を試さなくては」と感じる人が一気に増えた気がします。
二つ目は、「1on1」という手法がさらに普及していったことにあります。上司と部下が1対1で面談をする1on1は、上司が部下に指示や指導をする時間ではなく、部下の側が、自分の仕事における課題を相談したり、「自分の将来はこういう風に働きたい」「自分のキャリアをこうしたい」と上司と対話しながら深めるための時間です。
1on1の導入が増えた背景には、企業の経営環境が大きく変わったという事情があります。例えば自動車産業では、近い将来、ガソリン車が売れなくなっていくはずです。ガソリン車だけを扱っていれば、今まで年何百万台も売れていた市場がなくなってしまいます。技術は刻々と進化し、電気自動車や水素自動車など、新しいエネルギーを活用したモビリティが続々と登場してきている。当然、企業も変わらなくてはなりません。産業構造そのものを揺るがすような大きな変化に直面している企業が今、とても多くあります。
そういった環境になると、今後の事業戦略を考える経営陣だけではなく、現場にいる社員の一人ひとりも、自分たちが何を手掛ける会社なのかという自己認識を変えなくてはいけなくなります。
ただ一方で、「こう変わりましょう」という正解も、上層部にはまだない。だから、現場のみなさんに、「自分で考えて、いいと思う仕事の種を見つけて育ててください」「終身雇用は無理だから、自分のキャリアは自分で考えてください」とお願いする必要がある。つまり自律的に動く組織運営に変わらなくてはならないのです。
そのためのツールとして、社員の自律を実現するために1on1があるんです。
ところが、上司は「いきなり部下の話を聞いてください」と言われてもできなくて困っている。だから、私たちエールに「聞く」トレーニングの問い合わせをいただくわけです。
人間は自分の話を聞いてもらうことで、考えや感情を言葉にし、その結果、自己理解が深まって自律的に動けるようになります。つまり大きな変革を社内で浸透させていくには、社員の「聞いてもらう機会」をとにかく増やさないとダメなんです。聞くことの重要性に、会社側も少しずつ気づき始めています。
宮本 エールに「私には聞く力が足りない」と相談にこられる方は、どういうことに困っているのでしょうか。
篠田 例えば、上司が部下の話を聞く場面でも、上司がつい自分の話をしゃべってしまう、といったような困りごとがあります。
宮本 本当は聞く側なのに、なぜ自分の話をしてしまうのでしょうか。
篠田 私が監修した本『LISTEN』には、その原因は「不安」であると書かれています。自分に自信がないと「自分はきちんとした人間です」と相手に示さねばならないと不安を感じてしまう。すると、自分のことをどんどんと話してしまうのだそうです。
もう一つ、IQの高い人は他人の話を聞けない傾向があるとも書かれています。IQが高いということは、認知処理能力が高いし速いということです。目の前で話されていることよりも、自分の脳内の方がおもしろいから、自分の話をしたくなるわけです。
不安のもう一つ別の表現として、「沈黙が怖いから」という理由もあるでしょう。これは宮本さんの著書『行列のできるインタビュアーの聞く技術』にも書かれていましたよね。
宮本 本の中では、「沈黙を怖がらなくていい」と提案しています。
(2022年2月4日公開記事に続く)