人口減少、不動産不況などバブル崩壊後の日本との共通点が少なくない中国経済。日本と同様に低成長化の道を歩むのか、それを避ける処方箋はあるのか、「中国経済は日本化するか」識者鼎談の後編では、柯隆・東京財団政策研究所主席研究員、河野龍太郎・BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト、斎藤尚登・大和総研経済調査部長に低成長化をもたらす要因、米中対立への影響などについて徹底討論してもらった。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
社会保障の充実、民営企業再建が
成長率回復に不可欠な施策
――成長力が低下してきた中国経済を上向かせるために効果のある政策はありますか。
河野 本格的に経済を持ち直させる施策は社会保障の充実だと考えます。都市戸籍を持っていない人への社会保障をいかに整備するかです。安心を得られた人々が新たな中間層として消費を継続的に拡大させていくでしょう。
しかし、現状では社会保障の拡充に十分踏み切れていません。先行き不安で、予備的な動機で貯蓄を増やすために、貯蓄と投資のバランスが崩れて自然利子率が下がり、潜在成長率が低迷することにもつながっています。それが大きなインフレ低下圧力になっています。
柯 財政政策を講じれば講じるほど国有企業は生き残る可能性は高くなりますが、民営企業には財政資金が全く行き渡らないところが重要なポイントです。国有企業と民営企業の格差は拡大し、国進民退が進み、生産性が低下してしまいます。
民営企業は現在、かなり締め付けられています。中国のビッグテック企業の創立はほとんどが1990年代。習近平政権になって創業されたものはほとんどありません。だから、このままでは中国経済が後退局面に入っていく可能性が高いと思います。
齋藤 中国は、単年度の財政赤字の対GDP比率を3%以内にする、公的債務残高を60%以内にするという基準を作って、一応守っています。
しかし、隠れ債務があることがしばしば取り上げられています。ここについてはきちんとした情報が開示されていない。そのために、中国経済に対する極端な悲観論が出ています。金融部門と国有企業の債務が膨らみ、財政を動かさない代わりに国有企業に肩代わりさせてきたツケが出ています。
公的債務残高のGDP比を見るときには国有企業の債務残高を加えて計算すべきです。そうすると、日本並みか、それ以上の債務を抱えているのが今の中国です。ゾンビ企業を中心に、収益力の低い企業を温存させ続けてきたことでこうなっているのだと思います。
22年12月の経済工作会議で出された方針のように、民営企業を重視して民営企業のための政策を打てば中国の潜在成長率も少し上がるかもしれないですが、現在の習近平体制だとちょっと難しいとみています。
成長率回復に向けた施策はあるものの、現体制ではそうした施策を講じるのは難しそうだ。このまま中国経済は日本化するのか、それは米中対立にどういう影響を与えるのか、次ページ以降徹底討論していく。