「プーチンを倒せば平和になる」とは限らない、日本も危ない失脚後の最悪シナリオContributor / Gettyimages

日本人の中には、プーチン大統領が失脚すればウクライナ紛争が終結し、ロシアの民主化が進むことを期待している人が多いように思える。だが、必ずしもそうとは限らない。プーチン大統領よりも強権的で、かつ“中国寄り”の指導者が登場する可能性もあるのだ。そうした「ポスト・プーチン」の最悪シナリオを、根拠と併せて解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

トルコの立ち回りによって
スウェーデンの加盟が実現

 去る7月中旬、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議がリトアニアで開催された。スウェーデンのNATO加盟が確実になり、今年4月のフィンランド加盟に続いてNATOのさらなる「東方拡大」が実現した。

 一方、ウクライナのNATO加盟に向けた具体的な道筋は示されなかった。また、NATOの東京事務所の設置は、エマニュエル・マクロン仏大統領の反対で先送りとなった。

 スウェーデンのNATO加盟はもともと、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が強硬に反対していた。エルドアン大統領の言い分は「トルコからの分離独立を目指すクルド人勢力をスウェーデンが支援している」というものだった。

 だが首脳会談直前の7月10日、エルドアン大統領はスウェーデンのウルフ・クリステション首相と会談。その場でクリステション首相は、クルド人組織を支援しないこと、テロ対策の強化や反テロ法を施行すること、トルコのEU加盟を積極的に支援することを約束した。

 その結果エルドアン大統領は、スウェーデンのNATO加盟を受け入れた。こうしたエルドアン大統領の姿勢からは、「トルコが態度を軟化させてNATOを救った」という演出によって存在感を高めたいという思惑が透けて見える。

 トルコには「EU(欧州連合)への正式加盟」という長年の悲願がある。だが、イスラム教国であること、警察・司法制度が未整備であること、強権的な政治と人権抑圧の問題があることなどから、加盟は認められてこなかった。

 また、EU加盟国のキプロスは南北で紛争状態にあるが、このうち北部を支配する未承認国家「北キプロス・トルコ共和国」をトルコだけが承認している。このこともEU加盟を妨げるハードルになってきた。

 そうした状況の打開を狙って、エルドアン大統領はしたたかに振る舞ったわけだ。その結果実現したスウェーデンのNATO加盟は、フィンランドの加盟に続いてロシアに衝撃を与えただろう。