「プリゴジンの死」でワグネルに起きること…佐藤優も驚いた“深い関係”とは?写真:通信アプリ「テレグラム」に投稿されたプリゴジン氏の動画より

軍事クーデターが起きたアフリカ西部の国・ニジェール。クーデター部隊はロシアの民間軍事会社ワグネルに協力を要請。元外交官で作家の佐藤優氏は「マリや中央アフリカ共和国も、完全にロシア寄り」であり、「この数年でロシアがアフリカにここまで深く入り込んでいることには驚いた」という。ワグネルの創始者プリゴジン氏の死で変わることはあるのか。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

ニジェールのクーデターが
欧州にとって大問題である理由

 ニジェールの軍事クーデターが、意外な形で世界の注目を浴びています。ロシアがアフリカ諸国に対して影響力を増している現実が、ロシアの民間軍事会社との関連で明らかになったからです。

 ニジェール共和国は、アフリカ大陸の西側でサハラ砂漠の南側に位置する内陸国です。首都はニアメ。日本の3倍ほどの面積の国土に、およそ2600万人が暮らしています。ニジェール、マリ、チャド、ブルキナファソ、モーリタニアに及ぶ「サヘル」と呼ばれるこの地域は、かつてフランスの植民地でした。ニジェールは1960年に独立しましたが、公用語はフランス語です。

 7月26日、大統領警護隊の兵士らが親米派のモハメド・バズム大統領を拘束し、クーデターを宣言。その後、アブドゥラフマン・チアニ将軍が新たな国家元首になったことが発表されています。

 実権を握った「祖国救済国家評議会」がすぐに行ったことは、現行憲法の停止と、旧宗主国であるフランスへの金とウランの輸出停止です。ニジェールは世界第7位のウラン産出国で、日本も福島第一原子力発電所の事故が起こるまでは輸入していました。産出量の4分の1は欧州、中でもフランスへ多く輸出されています。フランスでは電力の75%が原子力発電で賄われているため、今後エネルギー価格の高騰が予想されます。

 サヘル地域ではイスラム過激派が勢力を拡大し、治安の悪化が深刻化しています。2020年にニジェールが西側の国境を接するマリ、22年には南西のブルキナファソで、クーデターが起こりました。今回のニジェールのクーデターも、バズム大統領の治安維持対策に対する不満が理由に挙げられています。今後、アルカイダやボコハラムなどのイスラム過激派がウラン鉱山を手中に収めれば、核流出の危険が生じかねません。

 イスラム過激派が勢力を伸ばしているのは、フランスの影響力が弱まり、権力の空白が生じているためです。フランスは「バルハン」と名付けた対テロ作戦に失敗し、昨年末に作戦終了を発表して5000人の隊員が退却しました。

 サヘル地域はフランスにとって聖域であり、米国を含む他国を立ち入らせませんでした。金銭的な援助を続け、軍隊も派遣してきましたが、数は少なく治安を維持できなくなってしまったのです。