混迷ロシア:プーチン、プリゴジンPhoto:Anadolu Agency/gettyimages

ロシア・ワグネルの反乱は短時間で収束したものの、プーチン政権の構造疲労を露呈する形となった。現時点では情報も錯綜しており、まだ不透明な部分が多いが、今回の反乱の原因と、今後のロシア情勢に与える影響について考えたい。(慶應義塾大学総合政策学部教授 廣瀬陽子)

ワグネルが担った「非公式関係」
国防省がアフリカ利権を狙った?

 今回の反乱の最大の背景は、ワグネル創設者プリゴジンとショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長の間の確執である。とりわけ、プリゴジンとショイグの関係の悪さは、戦争が始まるずっと前から顕在化していた。個人的な関係も良くなかったが、近年では、プリゴジンがショイグによってワグネルが危機にさらされていると思うようになっていたようだ。

 ワグネルは民間軍事会社といっても、ロシアの政治や外交に深くコミットしていた。とりわけアフリカ政策における役割は極めて重要で、政府がアフリカとの「公的関係」を担っていたのに対し、ワグネルはロシアが言うところの「安全保障の輸出」を中心とした「非公式関係」を担っていた。

 実は、ロシアとアフリカの関係では、後者の方が大きな意味を持ってきたのである。そして、「非公式」の関係においては、ワグネルはアフリカの非民主的政権のサポートや軍の訓練、資源採掘の防衛などを行い、他方で、金やダイヤモンドをはじめとした資源に関する利権を獲得して、膨大な利益を得ていた(なお、それらの利益の一部は、プーチン大統領やその親族にもあてがわれていたという)。

 このような状況の中で、国防省がワグネルのアフリカ利権を狙っているという疑念が強く持たれるようになり、プリゴジンは国防省がワグネルを解体しようとしていると感じ、怒りをさらに募らせていたようだ。