「目先の利益」を手放す勇気をもつ
おそらく数秒のことだったと思いますが、そんな葛藤を経て、僕は、お客様にこうお伝えしました。
「その保険、すごくよいと思います。いい保険に入られてますね」
一瞬、僕の胸に痛みが走りました。
これで、「売上」がなくなったことが確定したからです。
だけど、「ほんとですか? プロにそう言ってもらえると、すごく安心できますね」と喜ぶお客様の顔を見ると、こちらも嬉しくなりました。そして、「For me思考」を克服できたような気がして、清々しいような気持ちにもなりました。とはいえ、このときは契約をお預かりできなかったので、がっかりしたというのも正直な心情ではありました。
「目先の利益」よりも、「信頼」が圧倒的に大切
しかし、話はこれで終わりませんでした。
それから、しばらく経ってから、そのお客様からこんな連絡をいただいたのです。
「この間は、僕の保険について、親身に相談に乗ってくださって、ありがとうございました。でも、金沢さんはご自分の保険を売りたいはずだから、なんか申し訳ないと思って、保険に入ることを検討している知人がいないかなとアンテナを張っていたんですよ。そしたら、いたんです。ちょっと会ってもらえませんか?」
これは嬉しかった。
「For me思考」に囚われた営業ばかりしていたために、僕の歩いたところは”焼け野原”になっていましたが、ついに自発的に新規のお客様を紹介してくれるお客様が現れたのです。当時、八方塞がりの状況に置かれていた僕でしたが、かすかな光明を見出した瞬間でした。
ほとんど何もしなくても、
相手が自ら動いてくれる
同時に、僕はすごく重要なことにも気づきました。
というのは、新規のお客様をご紹介いただくために、僕はほとんど何もやっていないからです。
あのとき、僕はただ、僕なりにお客様の「お役に立とう」としただけです。にもかかわらず、そのお客様はわざわざ、僕のために「保険に入ることを検討している知人」を探してくださったのです。「これって、すごいことではないか」と思わずにはいられませんでした。
なぜ、お客様はそんな手間をかけてくださったのか?
僕がその方の悩みや不安に耳を傾けたうえで、その方がすでに入っている保険をプロとして診断して、「いい保険です」とお墨付きを出したわけですが、それをとても喜んでくださり、「感謝の気持ち」をもってくださったからに違いありません。
そして、「保険の営業マンである僕」から保険に入らなかったことに対して、「潜在意識」において”申し訳なさ”を感じてもくださった。だからこそ、僕に対して「何か”お返し”をしたい」と思われ、自らの意思で僕のためにわざわざ動いてくださったのです。
相手の力に逆らうのではなく、相手の力を借りる
これはまるで、合気道のようなものではないでしょうか。
合気道とは、相手の力に逆らうのではなく、相手の力を借りることで、相手を動かす武道だと僕は理解しています。これと同じように、相手の潜在意識においてポジティブな感情をもってもらうことができれば、相手が自発的にこちらのために動いてくださるのです。
相手の力に逆らうのではなく、相手の力をお借りするのですから、こちらが余計な力をこめる必要などありません。「For me思考」から離れて、相手の「お役に立とう」とすれば、自然と、相手は力を貸してくれるようになるのです。つまり、「本物の影響力」を発揮できるようになれば、ものすごく「楽」に結果を出すことができるようになるということです。
相手を無理やり動かそうとしても、
こちらが「消耗」するだけ
一方、「偽物の影響力」は過酷です。
TBS時代の後輩にクーリングオフをされたときのことを思い出せば、それは簡単に理解できます。
あのとき、僕は、「For me思考」に囚われて、後輩に無理やり契約書にサインをさせようとプレッシャーをかけるようなことをしてしまいました。いわば、嫌がる相手を力付くで押さえ込もうとするようなもの。相手に不愉快な思いをさせるだけではなく、僕自身にも精神的に多大な負荷がかかっていました。
しかも、そのときは相手を押さえ込むことができたとしても、いつか必ず相手から反撃を受けます。「偽物の影響力」に頼っている限り、自分にものすごい負荷をかけながら、長期的にはほとんど得るものがない(むしろ、失うものが多い)という事態を自ら招くわけです。
皮肉めいた言い方になりますが、実に”ストイックな働き方”と言えないでしょうか。そんなしんどい生き方から卒業するためには、「本物の影響力」を学ぶ必要があるのです。
「For me思考」を克服すれば、「本物の影響力」が手に入ります。
そして、「本物の影響力」を発揮することができるようになれば、周囲の人たちがあなたのために力を貸してくれるようになります。もしも、あなたの能力が十分ではなかったとしても、周囲の人たちが、あなたを成功させるために「道」を切り拓いてくれるのです(詳しくは、『影響力の魔法』に書いてありますので、ぜひお読みください)。