しかし、中国は、日本政府やIAEAの科学的根拠に基づいた説明には耳も貸さず、自国の原発から東シナ海に“日本よりはるかに多くのトリチウム”を放出している事実は完全に無視している。

 もはや科学的議論の余地はなくなっている。

 今回の水産物の禁輸措置は、“害虫の混入”を言いがかりにした台湾産パイナップルや水産物の輸入禁止や、尖閣問題を巡る日本へのレアアース輸出制限など、中国がこれまでに行ってきた「エコノミック・ステイトクラフト」の一例といえる。

 中国としては、不動産不況や失業率悪化などによる人民の不満のガス抜きを目的としているほか、処理水を政治問題化させ、新たな外交カードとしたいのは明白だ。

 現に、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は処理水放出について「国際社会はこの問題で無期限に日本の責任を追及する」と題する社説を掲載。中国政府として、約30年続くと想定される処理水放出を“長期的に日本をたたく材料”としたいとの思惑がうかがえる。

 中国国内では「科学的に問題ない」などと投稿されたSNSのコメントが削除されるなど情報統制が強化されているほか、偽情報(誤情報も)の発信も行われている。

 X(旧Twitter)ではデマ画像も出回っている。下の画像はもともと、米政府機関NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration)が東日本大震災時の津波の高さを示した図であるが、日本の処理水がどう拡散するかといった誤った説明に置き換えられているのだ。

誤った説明に置き換えられた東日本大震災時の津波の高さを示した図

 中国が半ば“目的”を持ってSNSや国際会合の場で偽情報を発信し、日本国内でも一定の勢力がその動きに加担している様相を見せている。

 このような状況下、韓国政府は処理水放出を安全とするスタンスを見せている。

 だが、韓国に対する北朝鮮のスパイ活動から浮き彫りになっているのが、中国・韓国左派・北朝鮮による処理水放出を巡る思惑の奇妙な一致である。