人生100年時代、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超えている。大増税改革と言われている「相続贈与一体化」に完全対応の『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】 相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』を出版する(発売は5月17日)。遺言書、相続税、贈与税、不動産、税務調査、各種手続という観点から、相続のリアルをあますところなく伝えている。
知らないと絶対損する! 生前贈与の新ルール
贈与税の計算方法は、暦年課税制度と相続時精算課税制度の選択制とされています。
暦年課税制度とは、普段からよく聞く、「年間110万円まで非課税で、超えた部分に贈与税の税率をかけて贈与税を計算する」といったオーソドックスな贈与税の計算方法です。2024年からは、段階的に持ち戻し期間が7年になります。
相続時精算課税制度とは、「贈与するときは最大2500万円まで贈与税を非課税にするが、贈与した人が亡くなったときは、過去に贈与した財産をすべて相続財産に持ち戻して相続税を計算する」という贈与税の計算方法です。2024年1月1日以降、相続時精算課税制度を選択した場合、年間110万円までの非課税枠が新設されるので、年間110万円までの贈与は非課税となり、申告義務も無くなりました(選択した年は、選択の届出が必要)。
実はこれまでの税制において、相続時精算課税制度を選択する人は少数派でした。
2020年の統計によれば、暦年課税による受贈者が約36.4万人に対し、相続時精算課税による受贈者は約4万人でした。なぜ、相続時精算課税制度を選択する人が少なかったのでしょうか。
それは、相続時精算課税制度を一度選択すると、二度と暦年課税制度に戻ることができなかったからです。暦年課税制度であれば、3年内加算のルールはあるものの、3年経過すれば大きな節税効果を得ることができます。
しかし、相続時精算課税制度を使うと、最終的に贈与した財産がすべて足し戻されるため節税にならず、さらに、本来は節税することができる暦年課税制度に戻ることもできないため、節税メリットがないだけでなく、節税できる機会を失くすデメリットが大きい制度だったのです。
しかし、2024年以降、暦年課税は7年ルールとなるため、魅力は半減(むしろ消滅?)。つまり、相続時精算課税制度を使うデメリットが無くなることになります。
※前回記事『「税務署には1円も払いたくない」生前贈与の新ルール、頭のいい人がやっていること』を参照
それであれば、相続時精算課税制度を使わない理由はありませんので、年間110万円以上に節税できる、とっておきの方法をぶっちゃけてご紹介します。
応用技! 価値が暴落しているものを贈与する
これはなかなか狙ってできる技ではありませんが、価値が暴落しているものを、相続時精算課税制度を使って一気に贈与する、という技があります。
例えば、何かしらの経済状況により、価格が暴落している株式銘柄があったとします。こういった財産があれば、そのときに相続時精算課税制度を使って一気に贈与してしまうのです。
贈与した株式は、最終的に亡くなった人の相続財産に足し戻して相続税を計算しますが、足し戻される価格は、贈与した時点での評価額です。そのため、暴落時に贈与をすれば、足し戻される価格は暴落時の価格であるため、仮に株価が元通りに回復しても、評価額を暴落時のものに固定することができるのです。
ただ、実際には、どの時点が株価の底値であるかを見極めることは非常に難しいため、「ここが底だ!」と思って贈与をしても、その後、さらに株価が下がる可能性もあります。相続発生時点の株価が、贈与時よりも低ければ、その分、相続税の負担が増えてしまうので、確実に節税できる考え方ではないことにご注意ください。
経営者が絶対知っておくべきこと
しかし、この方法は上場している株式ではなく、非上場の中小企業オーナーが所有する株式に対しては、かなり有効に使うことができます。
非上場の株式の評価額は、その会社の貸借対照表や損益計算書を使って計算するため、役員退職金を支給する年度など、一時的に利益額が小さくなっている年の株価は、通常よりも非常に割安に評価されます。そのようなタイミングを狙って後継者に相続時精算課税制度で贈与してあげれば、トータルで見たときに大きく税負担を抑制することが可能です。
(本原稿は橘慶太著『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋したものです)