日本医科大学千駄木キャンパスと一体化している日本医科大学付属病院(東京・文京区)
ICT(通信情報技術)やAI(人工知能)の発展は、医学界にも無縁ではない。最新のテクノロジーを取り込むことで、これまでできなかった医療も実現できるようになる。これからの医師に求められる資質とは何か。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)
弦間昭彦(げんま・あきひこ)
日本医科大学学長

1956年東京生まれ。日本医科大学学長。83年日本医科大学医学部卒業、89年同大学院修了。98年同大学講師、2004年助教授、13年医学部長、15年から現職。専門は呼吸器病学、臨床腫瘍学。元日本肺癌学会会長、元日本癌治療学会会長、元日本呼吸器学会会長。
全講義を録画して配信することの意味
――医学部人気には根強いものがあります。新型コロナ禍が蔓延したとき、生き方として医師にあこがれを抱いた若い人も多いと思います。
弦間 医師は、いい職業だと思います。良心のままに活動して、患者さんから喜んでいただける。社会的にも一生気持ちよく過ごせる仕事です。
――学校案内を拝見すると、最先端のテクノロジーを活用した医学教育を前面に打ち出していますね。常に最も進んだ医学教育を行おうと。
弦間 学長になってから10年たちますが、できるだけ新しいテクノロジーを取り入れて、いままでできなかった教育をやっていきたいと考えています。ICT(情報通信技術)による個別化教育を推進しており、8年前から全講義をオンデマンドビデオ化して、e-Learningを行っています。新型コロナ禍のときも、通常通り維持すればいいという状態でした。
――それはすごい。なぜいち早くそのようにしたのでしょう。
弦間 同じような成績で入って来ても、学生は「2:6:2の法則」によって分かれます。2割くらいの学生は黙っていても勉強しますが、2割くらいはやる気をなくしてしまう。教育はどうしても残り6割くらいの普通の学生に合わせるのが効率的です。そうすると上下2割ずつの学生には合わない部分が出てきます。個別化・層別化教育が必要となります。
――それは学校が抱える根本的な問題です。
弦間 カリキュラムが密なため、下位の成績の学生が勉強をし直そうとすると留年しかありませんでした。医学部は割と留年が多いのですが、それは非効率的なものだと思っています。全講義が配信されていれば、その科目だけ夜に余計に履修してもらえばいい。
1~2年生で不合格科目が2つ以下で、成績(GPA=Grade Point Average)が一定以上の学生には仮進級の仕組みも設けました。留年をできるだけ減らしていきたい。未修得の科目が雪だるまになった人は留年も仕方ないですが。2回留年すると退学処分になります。
――中退の防止策という側面もあるわけですね。成績上位生はいかがですか。
弦間 上位生にとって、普通の講義に出席することが足かせになる。そういう人たちはもっと伸びるだろう、ということで自由にしたい。実習だけはやってもらいますが、あとの講義は来なくていいですよ、試験だけ通ってくれればいいですよという制度にしました。
そうすると、僕らのときよりもできる学生のやる気はもっと上がる。野球の大谷翔平選手もそうですが、昔よりも世界を見ている学生は結構多い。GPA上位者特別プログラムで、成績上位30人くらいのうち半分ほどは研究室で研究しています。海外留学する学生もいます。そういう人たちにはどんどん伸びてもらう。
360度カメラなど、医療現場には日々、最新のテクノロジーが取り込まれていく 写真提供:日本医科大学







