その次の年、またあの季節が近づいてきて、対策を考えた私は、オムツの着用も視野に入れ始めた。これなら多少の尿漏れも問題ない。

 しかし、大人用の紙オムツだとズボンを履いていても臀部が盛り上がって見えてしまうのが恥ずかしい。バスドライバーの臀部など誰も気にしない? そりゃそうだろうが、まだそんな歳ではないという抵抗感もあり、紙オムツ着用には至っていない。

 そんな私の冬場尿漏れ対策は、通販で3枚5000円の尿漏れ対応トランクスだ。10~20cc程度の尿漏れならこれでばっちりという優れもの。

 冬の朝限定なので、この季節さえ乗り切ればと、運転中、気持ちと一緒に尿道を締める私であった。

左側の一番前の見晴らし席は
子どもとバスオタクに大人気

 平日の昼すぎ、20代と思しき若い男性が、駅前ロータリーにある始発の停留所から乗車してきた。乗客は数人しかおらず、車内はガラガラだ。それなのに男性は、真っ先に左側の一番前の席に陣取った。

 男性の姿格好と、首からぶら下げている一眼レフカメラ、手に持っているビデオカメラを見て、私はイヤな予感がする。もしかしてこの人、「バスオタク」では……。

 左側の一番前の席は、視界がよく運転操作も眺められるので、バスオタクのみなさんが好んで座る場所なのである。

 もちろんバスオタク以外の方も座る。ガラガラなのにこの席に座りがちなのが子どもだ。この席は座席が高い位置にあり、とくにノンステップ車(乗降ステップがないバス)だと、子どもの場合はよじ登って座るほどに高い。だから座席には注意書きで「お子さまやお年寄りの方はご遠慮願います」と書いてあるのだが、無視して座る子どもが多い。見晴らしが良く、ちょっとしたアトラクション気分を味わえるので人気なのだ。

 でも、今座っているのはどこからどう見ても大人の男。出発前からキョロキョロし、偏見だとわかっていても、タータンチェック柄のシャツにデイパック姿がオタク感に拍車をかけている。

 定刻どおりバスが発車すると、予感は的中した。男性は一眼レフカメラでフロントガラス越しの風景や、運転席付近の撮影を開始。写真を撮るときのカシャ!カシャ!というシャッター音が気になり、集中が削がれる。かといって、乗客を撮影しているわけではないので注意することもできない。