また、朝は慌ただしく、路線によっては道路が渋滞したり、お客の乗降が多く、その対応で大幅に運行が遅れたりすることがある。そうなると折り返し地点に到着後、すぐに次の運行をせねばならず、トイレに行く時間がなくなってしまう。

 トイレに行きたくなるのは生理現象なので、ルール上は営業所に無線を入れれば運行に遅れが出てもトイレに行ってよいことになっている。しかし、そうはいっても現実的には難しい。

 トイレに行くためには、バスを待っているお客の横を通り抜けることになるのだ。膀胱が四の五の言っていられない状況に追い込まれていれば、考える間もなくトイレに駆け込むだけだが、中途半端な状態が一番困る。

「行っておいたほうがいいよな」「いや、出発予定時刻はすぎているし、この程度ならまだ30分は我慢できるぞ」「でも、万一、我慢できなくなったらどうする」

「帰りの路線は道路も空いているし、前回も大丈夫だった」……。私の中の「行っておけ」派と、「まだ大丈夫」派が闘っている。

 で、たいてい「まだ大丈夫」派が勝利する。朝の混雑時、出発を遅らせてお客を待たせてまでトイレに行く勇気は私にはない。

 トイレを我慢して、折り返し運行を決行すれば、当然、運行中にトイレに行きたくなる。

「終点まであと10分」「あと8分」「頑張れ、あと5分」などと残り時間を考えつつ、足をモジモジしたり尿道に力を入れたりしながら運転している。場合により、ちょろっとだけ漏れてしまうこともある。いつもより車内アナウンスの声が甲高くなったりする。冬場の朝の運行ならではの苦労だ。

 トイレ我慢もつらいので、なんとかならないかと病院に行った。医師が言うには、「歳をとって膀胱が固くなってきたので、尿が我慢できにくくなっている」。

 そして処方されたのは「膀胱をやわらかくする薬」だった。薬で膀胱をやわらかくできれば、今よりも我慢がきくようになるという医師の言葉を信じ、藁にもすがる思いで1錠200円するその新薬を、1日1錠飲み始めた。

 ところが、なかなか効果を感じない。寒さが本格化し、トイレの近くなる12月から飲み始めたのだが、1カ月経っても、2カ月経っても、状況は変わらない。

 例年どおりのモジモジ我慢大会が続く。3カ月がすぎるころには尿意を我慢できるようになってきたが、これは薬のチカラではなく、季節が変わって気温が上がったおかげだろう。結局、この薬はこの年だけでやめた。