たとえば、1994年に『諸君!』で発表した「結婚難と経済成長」の中では、「女性は自分や自分の父親よりも収入の高い男性と結婚するのが当然だと思っている。高度経済成長期はそういう男性が簡単に見つかったからみんな早く結婚した。けれども、経済成長が鈍り低成長期になって、自分や自分の父親よりも収入の高い男性の数が減り、結婚相手を見つけることが難しくなって、結婚は先延ばしになり、結果的にあぶれて結婚できない男女が増えている」と論じました。

 経済が高度成長から低成長になった1975年以降に晩婚化、すなわち未婚化が始まります。

 そのとき結婚をめぐって生まれた現象は、収入の高い男性と結婚できる確率が低下する、という経済条件の変化でした。それでも、収入の低い男性と結婚するのを女性が厭わなければ、未婚化は起こりません。けれどもそうはならず、女性は収入が低い男性とあえて結婚することはしない──。

 つまり未婚化は、結婚をめぐる意識は変わらないけれども「経済・社会環境」が変わったがために生じた現象であり、経済の低成長という構造的要因なので将来的にも結婚できない人が増え続ける、というのが私の主張だったのです。

未婚化は1975年から始まった、家族社会学者が指摘していた研究者やマスコミの“過ち”『結婚不要社会』
山田昌弘(著)
定価825円
(朝日新聞出版)

 けれども、研究者やマスコミも含めて当時のほとんどの中高年の人たちは「結婚なんて簡単にできるもの」と思っていたようです。そして当事者である若者たちも、「結婚なんて、本人がしたければすぐにでも相手が見つかる」と誰もが感じていた。つまり、未婚化を単なる「結婚の先延ばし」だとほとんどの人が思っていたのです。だからこそ、結婚問題が国の少子化を生み出す社会問題にまで発展してしまったのではないでしょうか。

 大きな声では言えませんが、今日の結婚難に悩む若い人たちから見たら、周りには「よくこんな人が結婚できたな」と思えるような60代、70代の人が多いはずです。これは、経済成長が続いた1975年頃までは、どんな人にとっても結婚は「本人がしたければ、簡単にできるもの」だったということの裏返しでしょう。

 1975年以降の結婚をめぐる社会的な変化や実態をきちんと調査して把握していれば、結婚が簡単にできるものではなくなってきたことに気づいたはずです。

山田昌弘(やまだ・まさひろ)
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主な著書に、『近代家族のゆくえ』『家族のリストラクチュアリング』(ともに新曜社)、『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『新平等社会』『ここがおかしい日本の社会保障』(ともに文藝春秋)、『迷走する家族』(有斐閣)、『家族ペット』(文春文庫)、『少子社会日本』(岩波書店)、『日本はなぜ少子化対策に失敗したか』(光文社)、『「家族」難民』『底辺への競争』『新型格差社会』(朝日新聞出版)などがある。

AERA dot.より転載