漫画インベスターZ『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第15回は、投資は攻めるべきか、守るべきか? 永遠のテーマを考察していく。

「買って忘れる」はひとつの理想

 財前孝史は投資部のミーティングで世界中の有望銘柄を各部員が発掘する学内ヘッジファンドの実態を知る。年金のような長期安定運用を志向しないのは「断然ヘッジファンドのほうが面白いからだ」と主将の神代圭介は言い切る。

「投資や経済は面白い」が私の持論だが、「分散・積立・長期」を基本とするインデックス投資は単調で、少々退屈なものだ。プランが固まれば、対象ファンドを毎月一定額買い付けるだけ。たまのチェックとリバランス(資産配分の調整)くらいしかやることはない。神代が言う通り、ヘッジファンドのような絶対リターン追求型やアクティブ運用(市場平均をしのぐ収益を目指す手法)の方がダイナミックで、知的ゲームとしては面白い。

 ただし、コツコツ投資の退屈さは短所ではなく、大半の人にとって長所なのだ。投資に生真面目に向き合いすぎれば浮き沈みで疲弊する。株価急落に動揺して積み立てをやめてしまったり、本業やプライベートがおろそかになったりすれば本末転倒。機械的なルールによる「Buy & Forget(買って忘れる)」はひとつの理想だ。

 コツコツ投資派でもアクティブ運用のような面白さを味わえる方法に「サテライト投資」がある。資産の中核(コア)はたとえば一般的なインデックス連動型ファンドに投じる。衛星(サテライト)のような副次的位置づけで、個別銘柄やアクティブファンドなどの「攻め」を組み合わせる。

「アクティブは長期では市場平均に勝てない」というパッシブ運用信奉者には、コア・サテライト運用はコストと時間の無駄に映るかもしれない。「アクティブか、パッシブか」の神学論争には踏み込まないが、たとえパッシブ優位だとしても、サテライト投資には効用がある。フットワークが軽く、アンテナが敏感になることだ。それはコツコツ投資の戦略の充実にもつながる。

債権投資で学びを加速

漫画インベスターZ_2巻P161『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 ネット上では全世界株型や米株価指数連動型への集中投資をもって「これだけでOK」とする論調もあるが、債券や不動産、コモディティーなど株式以外の資産も組み合わせた方が分散効果は高まる。今は様々な資産を対象とした低コストのファンドがあるので、その気になれば選択肢は幅広い。

 不慣れな商品をいきなり中核に組み込むのはハードルが高いが、サテライトの位置づけなら「お試し」がやりやすい。実際に投資してみれば、値動きの大きさや、金利や為替、景気の変動など外部要因にどう反応するかといった手触りを学べる。

「攻め」というサテライトの役割とは別に、私がオススメしたいのは少額で良いので債券ファンドを持つこと。マーケット記事には「利回りが上昇すると債券価格は値下がりする」という決まり文句があるが、理屈だけではスッと頭に入らない。実際に投資してみれば、金利上昇のインパクトがつかめる。

 新興国の債券に分散投資するタイプを保有すれば、各国の金利やインフレ、為替変動に対する関心がぐっと高まる。たとえば今、トルコの10年債利回りが何%か、ご存知だろうか。答えは20%超。まずい政策がインフレと通貨安のふたつの重荷を招き寄せ、景気失速の中でも金利は記録的な高水準にある。ブラジル、ロシア、南アフリカといった国々も10年金利は2ケタだ。

 こうしたデータは投資しなくても得られるけれど、自分の財布にかかわるとなれば学びのスピードも深化も早まる。少しばかりの身銭を切って、気象衛星やスパイ衛星のようなサテライトを飛ばしてみてはどうだろうか。

漫画インベスターZ_2巻P162+P163『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ_2巻P164『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク