「テレビムラ」とは
2年前のデーブ・スペクターさんの指摘

 一つ目のムラは「テレビムラ」だ。このあたりは、テレビプロデューサーのデーブ・スペクターさんのお話が端的でわかりやすいので引用させていただこう。 

《外国のテレビは制作も編成も報道もすべて、2年や3年の契約で雇う。プロデューサーもよそからヘッドハンティングして、よければ続くし悪ければなくなる、スタッフ丸ごと総取っ替えも日常的。番組を作る人と経営陣は切り離していますし、個人のプロ意識や責任感は彼らの生活に直結しています。

一方で日本はみんな社員でしょ。テレビ局の社員が全部決める。もちろんいい部分もありますけど、上司と部下の関係や芸能事務所との仲に優先順位が置かれています。忖度につぐ忖度がテレビの制作現場の実態》(Yahoo!ニュース オリジナル Voice 21年9月3日)

 この「上司と部下の関係や芸能事務所との仲が最優先」という「テレビムラの掟」こそが、「マスメディアの沈黙」を生んだ要因のひとつだと筆者は考えている。

 フォーリーブスのメンバーだった故・北公次さんの告発や週刊文春の性加害報道があった時、心あるテレビ局社員が、「未成年者への性加害という問題があるのでジャニーズとの付き合いを見直すべきだ」なんて騒いだらどうなるか。

「お前はバカか」とすぐに閑職に飛ばされるだろう。当たり前だ。光GENJIやSMAP、KinKi Kidsなどのドル箱スターで番組をつくっている同僚たちの仕事を奪うことになるからだ。また、それはこれまでジャニーズ事務所と良好な関係を築いて、数々の人気番組を世に送り出してきた先人たちの顔に泥を塗ることでもある。しかも、もしそのような批判がジャニーズ事務者側の耳に入って機嫌を損ねてしまって、人気アイドルをブッキングしてくれなくなったら、局全体にとっても損失だ。

 つまり、「テレビムラ」の中では、上司と部下の関係、大口の取引先である芸能事務所との関係を壊すような行いはムラの秩序を崩壊させる「大罪」ということなのだ。

 それに比べたら、ジャニー氏が未成年者に性加害を加えているなんて話は、番組のプロデューサーがグラビアアイドルに手を出したくらいの「微罪」だった。だから、みんなで「沈黙」した。ジャニーズ事務所から圧力をかけられたわけではなく、テレビ制作に関わる「みんな」の幸せと平和のため、自ら進んで口を閉ざしたのである。