国税庁が2023年5月に公表した「信託型ストックオプション」の課税解釈は、権利行使時の非課税といったそれまでの実務慣行を覆した。課税回避のために信託の仕組みが乱用された事例であり、役員報酬における「信託」の役割に疑問を投げかけるものだった。本稿では、信託業者による役員報酬への適正な関わり方を検討する。
実務慣行を否定した国税庁の課税解釈公表
国税庁は2023年5月に、ストックオプションに係る課税解釈の指針(注1)を公表した。この指針は、それまで「信託型ストックオプション」を利用すれば、オプション権利行使時は非課税、交付された株式の譲渡時に課税される(譲渡所得)と根拠なく解釈されてきた実務慣行を否定し、権利行使時に課税される(給与所得)ことをあらためて確認した(注2)。
もともと役員報酬としてのストックオプションは、給与所得または譲渡所得のいずれが課税されるかにより課税率が大きく異なるため(譲渡所得20%、給与所得最大55%)、特例として「税制適格ストックオプション」の制度がある。
税制適格ストックオプションとされるためには、(1)取締役等に無償で交付されること、(2)付与決議日後2年から10年(設立5年未満の非上場企業は15年)の間に行使すること、(3)行使の際の権利行使価額が年間1,200万円を超えないこと、(4)権利行使価額は付与契約時の時価以上であること、(4)譲渡制限があること、(5)株式交付が株主総会決議による募集事項に違反しないこと、(6)権利行使後の株式が金融商品取引業者等に保管・管理委託されること──が要件とされ(租税特別措置法29条の2)、この要件をすべて充足しなければならない。
これらの要件のうち一つでも欠けると、税制非適格ストックオプションとなり、権利行使時に行使価額と時価の差額が給与所得として課税される。この権利行使時の給与所得課税を回避するためのスキームとして信託の仕組みを用いて商品設計されたのが、信託型ストックオプションである。