近時、インセンティブ報酬の一種である株式報酬の導入が進んでおり、その設計も多様化している。欧米の制度を参考に、いわゆる事後交付型の株式報酬を導入する企業も増加してきた。だが、そうしたスキームの導入に当たっては、日本の法制度上の取り扱いを整理しておく必要がある。本稿では、上場会社における新しいかたちの株式報酬制度の導入時の課題と留意点について、法的側面から概観する。
柔軟に設計可能な株式報酬
東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードは「経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである」としている(原則4-2)。実際に、プライム市場上場会社を中心に、業績連動報酬を導入する企業は近時増加している(注1)。
その中でも近時、株式等のエクイティーを用いたインセンティブ報酬(いわゆる株式報酬)の柔軟化・多様化が進んでいる。株式報酬は中長期的な業績向上へのインセンティブとして機能し、海外を含めた機関投資家の要望にも応えるものとされている。会社にとっては、手元資金の流出を回避できるという利点もある。
株式報酬として典型的に用いられているのは、ストックオプションや譲渡制限付き株式(Restricted Stock)である。譲渡制限付き株式の制度については、日本では、導入時に株式を交付しつつ契約上の合意により一定期間譲渡を制限する「事前交付型」が一般的である。
だが、近時は欧米の制度を参考にして、「事後交付型」の制度を導入する企業も増加している。具体的には、一定期間経過後に株式を交付するもの(Restricted Stock Unit=RSU)や、一定の業績達成要件を充足した場合に株式を交付するもの(Performance Share Unit=PSU)である。
事後交付型の場合には、期間や業績達成の要件の充足後に初めて株式が交付される。交付を受ける役職員にとっては、それまでは議決権を行使し配当を受領することができない点が、事前交付型とは異なる。
こうした株式報酬は各社の状況に応じて柔軟に設計可能であるものの、設計上の支障が生じないか、日本の法制度上の取り扱いを理解しておく必要がある。