自身の「黒歴史」を黙殺し「手のひら返し」

 戦時中のマスコミで働いていた人たちは戦後、このような「過去」を必死に隠した。当たり前だ。戦争をあおって大もうけして、しかも戦後ものうのうと同じことを繰り返しているなんて知れたら叩かれてしまう。

 そこで彼らはこの「黒歴史」を消して、「正義のマスコミ」として生まれ変わるいい方法を考えた。「手のひら返し」である。

 これまで一蓮托生で戦争をあおってきた軍部をボロカスに叩いて、「実は私たちはあいつらに銃剣を突きつけられて嫌々、戦争に協力をさせられていたんです」と訴えて被害者ヅラをする。そうして「ノリノリで戦争をあおっていた」という「過去」を見事にロンダリングしたのである。

 さて、ここまで話を聞けば、筆者が何を言わんとしているのか分かったのではないか。そう、これはまさしく今、テレビや新聞がジャニーズ事務所に対してやっている手法だ。

 これまでテレビも新聞もジャニーズ事務所と強く結びつき、ジャニーズアイドルを持ち上げ、その恩恵でメシを食ってきた。だから、ジャニー氏の性加害にも目をつぶってきた。

 しかし、ジャニー氏の性加害問題で一気に風向きが変わった。「ズブズブの共犯関係」に国民の注目が集まるとボロカスに叩かれてしまう。となると、いつもの手法しかあるまい。

「手のひら返し」でジャニーズを叩いて、「触れてはいけない空気があった」「業界の大物に忖度してしまった」なんて感じで急に無力な弱者のフリをして、「ジャニー氏の性加害を間接的に支えていた」という「過去」のロンダリングを図っているのだ。

「あまりの卑劣さに反吐が出る」と気分の悪くなる人も多いだろう。ただ、これもマスコミをかばうわけではないが、しょうがない部分もある。

 これまで説明したように、マスコミの伝家の宝刀ともいえる「手のひら返し」は、戦争に敗れたことで生み出されたものだ。戦争にすべて責任転嫁をするつもりはないが、戦争というものは「人間の醜さ」を平時より際立たせて凝縮させてしまうものだ。

 つまり、日本のマスコミの立ち振る舞いに多くの人が「気持ち悪い」と嫌悪感を抱くのは、この組織の成り立ちに戦争があるということで、「人間の醜さ」がぎゅっと凝縮されてしまっているからなのだ。