楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか?ソフトバンク・孫正義との「決定的な違い」とは三木谷浩史(左)と孫正義 Photo by Jun Sato/WireImage(左) Photo by Tomohiro Ohsumi/gettyimages

携帯電話事業をめぐる経緯を振り返ると、三木谷浩史と孫正義の違いが見えてくる。三木谷は自分たちで免許を取ることから始め、完全仮想化ネットワークを設計し、自分たちで1本ずつアンテナを立てた。孫は兆円単位の巨額投資で、すでに国から免許を得ているネットワークを持つボーダフォンやスプリントを買収した。自分の手でブロックをひとつずつ積み上げていくのが三木谷で、出来上がった“作品”をどんと買うのが孫。三木谷は根っからの事業家で、孫は投資家の色が濃い(本文も含め敬称略)。(ジャーナリスト 大西康之)

※本稿は大西康之著『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)の一部を抜粋・再編集したものです。

孫の起業家引退

 ソフトバンクは日本の携帯電話市場で「3メガの一角」という地位を手に入れた。ソフトバンクグループの携帯電話子会社ソフトバンクは、2023年3月期、1兆600億円の営業利益を稼ぎ出した。グループの打ち出の小槌だ。同期の加入者は4700万人。雑居ビルから始まったスタートアップ企業が20年の時を経て、堂々の大企業、「持てる者」である。

 だが、孫はそれで満足する男ではなく、当然のように世界を獲りにいった。2013年、216億ドル(約1兆8000億円)をかけて米携帯3位の「スプリント・ネクステル」を買収、海外の携帯電話市場に打って出た。孫は返す刀で米4位の「Tモバイル」の買収に乗り出す。3位と4位を統合すれば、「ベライゾン」、「AT&Tモバイル」の2強に肉薄する。

 世界の壁を突き破ろうとする孫の前に立ちはだかったのが米国の連邦通信委員会(FCC)だった。大手4社が3社になることにより「携帯電話市場の寡占化が進み、競争が阻害される恐れがある」。そう主張するFCCはなかなか合併を認可せず交渉は泥沼化する。

 そうこうするうちにスプリントの業績が悪化していき、逆にTモバイルがスプリントの買収に乗り出した。

 ドナルド・トランプ大統領への政権交代もあり、20年4月にはTモバイルによるスプリント買収が認められることになった。スプリントの株主だったソフトバンクは合併した新会社の大株主になったが、経営の主導権はTモバイルにある。結局、孫は新会社の株をTモバイルに売り、米国の通信市場から撤退することを決めた。

 この頃から、孫は「事業」への熱意を失い始めたように見える。8年に渡ったスプリント立て直しと、合併を認めさせるための米政府との交渉は、孫を激しく消耗させた。