三木谷浩史が言う「楽天流」とは、大学の体育会系さながらの「身体性」を指す。社内公用語は英語、全社員のうち約2割が外国人の楽天が本社を構える二子玉川の洒落たオフィスで、週に1度、全役員・社員が腰をかがめて雑巾掛けをする様子は、ある種異様である。この楽天流にはもうひとつの“強み”がある。それは、日本最強企業、「トヨタ自動車」から持ち込まれた思想だ(本文含め敬称略)。(ジャーナリスト 大西康之)
三木谷の代わりに楽天を率いるとすれば
三木谷が言う「楽天流」とは、大学の体育会系さながらの「身体性」を指す。社内公用語は英語、全社員のうち約2割が外国人の楽天が本社を構える二子玉川の洒落たオフィスで、週に1度、全役員・社員が腰をかがめて雑巾掛けをする様子は、ある種異様である。
この楽天流にはもうひとつの“強み”がある。それは、日本最強企業、「トヨタ自動車」から持ち込まれた思想だ。
トヨタと言えば、生産現場で徹底的にムダを省き効率化を図る「カンバン」「カイゼン」がそのまま英単語になったトヨタ生産方式が有名だが、トヨタの本当の強みは、数字に裏付けされたマネジメントの力だ。トヨタを世界一に押し上げた不世出の経営者・奥田碩(おくだひろし)は経理畑出身だった。
百野研太郎は2007年、17年間務めたトヨタ自動車を辞めて楽天に入った。2022年3月には代表取締役副社長になった。楽天には副社長が7人いるが、代表権を持つのは百野だけ。代表取締役は三木谷、副会長の穂坂雅之、百野の3人になった。
三木谷より2歳年下の百野がどんな役回りを果たしているか。代表取締役の後に続く呪文のような百野の肩書を見ればわかる。
「モバイルセグメントリーダー兼コミュニケーションズ&エナジーカンパニープレジデント代表取締役副社長執行役員兼COOグループカンパニーディビジョンシニアディレクター」。
携帯電話事業の前線に立つのは共同CEOのタレック・アミンと鈴木和洋(すずきかずひろ)、そして社長の矢澤俊介だが、「総責任者」は百野なのだ。さらに楽天グループ全体の最高執行責任者(COO)を兼ね、楽天モバイル、楽天シンフォニー、楽天カード、楽天メディカルからスポーツ・ビジネスの楽天ヴィッセル神戸、楽天野球団まで13社の子会社の取締役に名を連ねている。
「研ちゃん、ちょっと時間ある?」
三木谷はよく百野を「散歩」に連れ出す。2015年に二子玉川に本社を置いてからは、何かを話しながら多摩川の堤防を歩く2人の姿をしばしば見ることができる。多いときは週に2回。何を話しているのか、と百野に聞くと、こんな答えが返ってきた。