車椅子、ベビーカーにあわせて優先レーンの幅が広いところに細かい気配りを感じる車椅子、ベビーカーにあわせて優先レーンの幅が広いところに細かい気配りを感じる(筆者提供)

 画像で示したのは台湾・台北捷運(台北メトロ)が2013年に導入した「博愛エレベーター」だ。これは日本と同じ障害者、高齢者、ベビーカーなど、交通弱者の優先使用を呼びかける取り組みで、駅ごとに利用者から公募した派手な装飾をして視認性を高めている。そして足元には「優先レーン(青線)」と「一般レーン(白線)」を設け、優先レーンの利用者から先に乗り込む仕組みだ。

 筆者は過去に5~6回ほど台湾を訪れており、その度に地下鉄の様子を見て回っているが、最後に台北に行ったのは2012年だったため、この取り組みは知らなかった。日本ではほとんど紹介されていない博愛エレベーターの背景を知るべく、知人の台湾メディア関係者を通じて台北メトロにメールで取材した。

エレベーターの優先使用問題で
本当に啓発すべきは誰か

 まず導入の経緯を聞くと、同社は2013年から「思いやりと礼儀を応援し、利便性と幸せを共に生み出す」精神を推進する、「捷運文化節(Taipei Metro Culture Festival )」活動を開始した。その一環として都心4駅に博愛エレベーターが導入され、良好な結果を示したことで翌年には全駅のエレベーターを「博愛」と位置付けた。

 思いやりと礼儀を奨励する文化運動ということで、政府が主導したのかと思いきや、台北メトロが自発的に「利用者にエレベーター利用時のマナー意識を植え付け、優しさと調和のとれた乗車文化を共に作り上げていこう」と始めたものだという。それだけに博愛エレベーターのデザイン(装飾)を一般公募するなど、広くアイデアをつのり、共に作り上げようとする努力も重ねた。

「捷運文化節」のようなものこそ本当の「啓発キャンペーン」であるが、文化的な背景が異なるので、これをそのまま日本で展開しようとは言わない(もっとも、台湾同様、礼儀を美徳と掲げるはずの日本でできない理由はないのだが)。ここは「良いとこどり」でレーン分けのみを参考にさせてもらおう。

 日本では優先席や女性専用車、整列乗車が定着しており、決められた場所に並ぶルールはなじみ深いはずだ。さらに周りの目を気にすると言われる日本人は、並ぶべきではない場所にいることが周囲に知られるのは耐え難い。レーンが明確になれば自然と従うだろう。

 一般利用者にとっても悪い話ではない。優先レーンから先に乗り込み、それでも空きがあれば乗れるし、優先レーンで待っている人がいなければ気兼ねなく利用できる。