地下鉄の入り口やコンコースに
多数の張り紙が貼られた経緯
写真の通り、明治神宮前駅のエレベーターは地上部入り口も地下コンコースも、共同キャンペーンのポスターや「エレベーターでしか移動が難しい方に優先的にご利用いただけるよう、皆様のご配慮・ご協力をお願いいたします」との駅長名の張り紙がベタベタと貼られている。
こうなった経緯は容易に想像がつく。優先使用が守られていないと利用者から苦情がくる、「啓発活動を強化するなど対策」としてポスターを貼る、苦情が来る、ポスターを貼る、それを繰り返した結果だろう。
それでも聞いてもらえない場合はどうするか、その答えが「啓発活動を強化するなど対策を検討」なのだから、東京メトロには問題を解決する気はないのである。
古巣の名誉のために書き加えておくと、この10年、東京メトロは駅のバリアフリー化を積極的に進めてきた。ホームから地上までエレベーターで移動できる駅の割合は、2010年度の68%から、2015年度に81%、2021年度末時点で98%(残り3駅)まで達している。
地下鉄駅にエレベーターを設置するには都心の一等地に土地を確保し、既存の駅構造を造り直す必要があり、莫大な費用と長い時間を要する。そうした中、急ぎ全ての駅にエレベーターを整備すべく取り組んできた担当者には敬意を表するが、その過程であまりにもハード偏重の思考に凝り固まっている面は否めない。
それを象徴するのが、さしみちゃんが明治神宮前駅で雑誌の取材を受けた際、立ち会ったメトロ広報担当者が恐縮しながら言った「ご迷惑をおかけしていることは理解しているが、エレベーターを増やすことは地上との兼ね合いから難しい」という発言だ。
担当者は丁寧に、申し訳なさそうにしていたという。だが彼女が求めているのはエレベーターの増設ではない。エレベーターでしか移動できない人が、既に決められたルール通り、ちゃんと利用できるようにしてほしいという、ソフト面の要望なのである。せっかくのエレベーターが当初の目的通りに活用されていないという現実は、設置に尽力した人々の努力を踏みにじっていると言えるだろう。