残念ながら、国交省もハードに頼ろうとしている。国交省鉄道局に聞いたが、「キャンペーンを行っているが、利用者のマナー・モラルに頼らざるを得ない問題」とした上で、マナー・モラルに頼らない部分での対応として「定員を増やした大型エレベーターの導入」を進めているという。そのエレベーターも譲られない利用者はどうすればよいのだろう。
とはいえ、国交省は現状を是認しているわけではない。交通バリアフリー法の義務や共同キャンペーンは「必要最低限の取り組みであり、それで十分とはなってほしくない」として事業者に独自の努力を促す。
台湾メトロが導入した
「博愛エレベーター」
では、どのような努力であれば有効だろうか。少なくとも、メトロの言うような啓発活動のさらなる強化などは問題外である。
面倒な啓発をしなくても、障害者が譲ってほしいと自ら言えば解決するのではという考えもあるが、さしみちゃんは何度も声をかけてきたし、声をかけても譲ってもらえなかった経験があり、単身の若い女性ということもあって、危険や不快な思いをしたこともあった。
一方、本当に困っている人なのか分からないし、声をかけて恥をかかないかと思って、自分から声をかけづらいという人もいるだろう。この行き違いを相互の「思いやり」で解決しようというのは絶望的だ。
ここでヒントになるのが電車内の優先席だ。お年寄りを見かけて座席を譲るべきか否かの葛藤という、手あかのついた「あるあるネタ」があるが、優先席という明示されたルールがあるおかげで緩和されている。
それはつまり健常者にとって、優先席は「なるべく座らない」「対象となる人が来たら譲る」と意識づけされるとともに、一般席では、目の前に明らかに具合が悪い人がいるなど、よほどのことがない限りは譲らなくても引け目を感じなくてよいという担保になる。
現状の優先席の仕組みに問題がないとは言わないが、少なくとも「思いやり」のあり方を個人に任せず、どこで何をすべきか明確にすることで「思いやり」は形になる。言い換えればたびたび導入が試みられる「全席優先席化」が失敗するのは、これを機能不全にしてしまうからだ。
では、どのようなやり方が考えられるのか。実は海外に良い例がある。