ニュースで見聞きした国、W杯やオリンピックの出場国、ガイドブックで目にとまった国――名前だけは知っていても「どんな国なのか?」とイメージすることは意外と難しい。『読むだけで世界地図が頭に入る本』(井田仁康・編著)は、世界地図を約30の地域に分け、地図を眺めながら世界212の国と地域を俯瞰する。各地域の特徴や国どうしの関係をコンパクトに学べて、大人なら知っておきたい世界の重要問題をスッキリ理解することができる画期的な1冊だ。この連載では、本書から一部を抜粋して世界の国を紹介する。

西アジアってどんな地域?

 東はアフガニスタンから西はトルコに至るまで続き、南にはアラビア半島が広がる西アジアは、ヨーロッパ、アジア、アフリカを結ぶ位置に当たる地域です。

 西アジアは古代メソポタミア文明の発祥地として知られ、ユダヤ教、キリスト教、イスラームの聖地があります。

 なかでもイスラームはこの地域で大きな勢力をもち、人々の日々の暮らしはイスラームの教えや戒律に従って営まれ、それは経済、文化、政治にも及びます。

 乾燥気候が広がり、人々は居住や生産の場所が限られる砂漠や半砂漠の環境の中で生活を営んできました。

 大河川の流域には都市が形成されましたが、人々は伝統的にオアシスでの灌漑農業や遊牧を生業としてきました。

紛争や内戦が絶え間なく発生

 そのような環境の中で生まれた民族集団が首長国として登場します。

 この地域には首長国やそれを引き継ぐ王国がある一方で、20世紀に入ってから近代化、民主化が推進されて共和国となった国もあります。

 国によっては欧米の民主主義とは異なる政治や社会体制が営まれたり、共和国において独裁政治が続いたりしたことに対して、改革や紛争を経験してきました。

 ヨーロッパ、アジア、アフリカを結ぶ位置に当たり、歴史的に東西交易路の要衝です。

 古代からバビロニア、ペルシャ、オスマントルコといった大帝国の興亡が見られた地域です。

 とくに西アジアから北アフリカ、東ヨーロッパにまたがる大領域を支配したオスマン帝国が19世紀後半から衰退していくのにともなって、この地域はヨーロッパ列強による覇権争いの舞台となりました。

 この地域の和平のカギともいえるパレスチナ問題の背景がそこに生まれました。

 第二次世界大戦後には、アメリカの介入やイスラーム過激派の活動も絡んで、各地で戦争や紛争が絶え間なく発生するようになっています。

石油に依存する湾岸諸国

 また、この地域を特徴づけるものに石油資源があります。欧米資本による石油採掘は1930年代から始まりました。

 やがてイランイラククウェートサウジアラビアといったペルシャ湾沿岸の産油国は、1960年に石油輸出国機構(OPEC)を結成し、国際的な原油価格に大きな影響力を持つようになりました。

 湾岸諸国の石油埋蔵量は世界全体の約45%、石油産出量は約30%を占めます。

 湾岸諸国にとって石油収入はきわめて重要で、厳しい自然環境にあって、豊かな国家財政と国民の高い所得水準をもたらしたのはオイルマネーでした。

 同時に、中東戦争や湾岸戦争をはじめとする西アジアの紛争には、常に石油を巡る利害の対立がつきまとっています。

 また、比較的人口の希薄なこの地域の国づくりや産業を支えたのは外国人労働者で、その流入によって国の人口構成に偏りが生まれることもあります。

 現在、石油依存からの脱却と将来的な持続性を目指し、海水の淡水化等による砂漠の農地化、都市づくり、産業の多角化、リゾートや金融センターの設立等が行われています。

(本稿は、『読むだけで世界地図が頭に入る本』から抜粋・編集したものです。)