日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、ベンチャー・キャピタル「アニマルスピリッツ」を立ち上げた元ミクシィCEOの朝倉祐介氏の対談が実現。「日本経済が復活するために足りないものとは?」「日本でスタートアップを盛り上げるにはどうすればいいか」「CFOに求められる資質とは」といったテーマについて、7回にわたってお届けする。(撮影/梅沢香織、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)
日本と欧米の資産運用業の違い
徳成旨亮(以下、徳成) 欧米は、やはり資本市場の厚みとか、歴史が違うなと感じます。日本の資産運用業界って、ほぼ銀行、証券、保険会社の子会社じゃないですか。野村アセットマネジメントは野村證券の子会社だし、アセットマネジメントOneはみずほと第一生命グループだし。
だけどアメリカとかヨーロッパって、銀行でも証券でもなく、資産運用を生業とした会社というのがもともとあるわけなんです。たとえばアメリカだとフィデリティ・インベストメンツ、ブラックロック、イギリスだとシュローダーとかベイリー・ギフォードとか。
いちばんおもしろいのは、スコットランドのエディンバラに起源を持ち、現在オーストラリアを本拠地とするFSIという資産運用会社です。『CFO思考』にも書きましたが、三菱UFJフィナンシャル・グループ時代に私はこの会社の買収に関与していました。デューデリジェンス(買収精査)の過程で沿革を調べると、あのタイタニック号にも投資していたんですよ。
この会社は、アメリカがまだ新興国だった頃、西部へと伸びていく鉄道事業や、ヨーロッパとアメリカを行き来する輸送船号などに投資することで大儲けしたんです。新興国投資を得意としていて、アジアに投資するため本拠地を香港に移し、今は、オーストラリアでインフラ投資などをメインにしている。
朝倉祐介(以下、朝倉) それぐらい、歴史が全然違うということですね。
徳成 100年以上も資産運用をやってきて、その間には第一次世界大戦もあり、第二次世界大戦もあった。それでも潰れずに乗り切ってきているわけですから、リスクマネーの割り振り方もしっかりわかっている。
ちゃんと分析に基づいて、スタートアップにはどう資金を割り振るかとか、長期の運用哲学みたいなものが彼らにはあって、そういう運用哲学を評価する世界中の富裕層や年金基金、ソブリンウエルスファンドなどの金主が彼らにお金を預けている。そしてそうした投資家の信任を得つつ、長期投資している。ボストンやエディンバラでは、そういう資産運用を巡る「金主」と「アセットマネジメント会社」がひとつの経済圏といいますか、エコシステムを作り上げているんですよね。
そこと比べると、日本は本当に資本主義の歴史が浅くて。所詮、昭和以降なんですよね。明治時代に開国して、いろんな資産が蓄積されて財閥もできたんですけど、第二次世界大戦でバサッとゼロに戻ってしまった。
そこからのまたやり直しなので、結局は数十年の歴史なんですよ。そうなると、やはり100年以上も資本主義をやってきた人たちと、借り物で資本主義をやっている僕たちとでは、行動原理が根本的に違う。
僕たちの行動原理は、それこそ藩の時代にあって。日本人は江戸時代の三百年、藩が長く続くことが大事、と思ってずっとやってきたわけです。また、個人のレベルでも「家」の永続が重要で、男子がいないとどこかから養子を迎えてでも家を守ってきたわけじゃないですか。
こうした価値観の下で、資本主義を輸入したものだから、企業も長く続くことが絶対的価値であって、新陳代謝で会社が潰れてまた新しい企業が台頭してくる、ということは悪なんですよね。
もちろんそれは決して間違ったことではないし、美しいことだと思いますけど、その価値観と欧米的資本主義がまだ上手く折り合えていない。これが日本経済の究極の課題じゃないかと思っています。
このギャップがあるから、CFOとして私はギラギラしている世界の投資家たちから「君たちにはアニマルスピリッツがないのか」と言われるんだと思うんですよね。
朝倉 必ずしも欧米型の企業経営スタイルを真似する必要はないと思いますが、海外の投資家を納得させてお金を出してもらえるような経営ができないことには大きな事業運営は難しいですからね。