子どもは親の所有物ではない

 眉根さんは26歳で結婚。現在の母娘仲は悪くはないと言う。

「私には今、小学2年生の娘がいます。今のところ歯科検診で指摘されたことはないですが、この先もしも娘に歯科矯正が必要になったら、娘を悩ませる時間の方がもったいないと思うので、お金はかかっても受けさせるつもりです。母は私が歯列矯正を断念するように約10年も怒り続けてきましたが、その間にできることはなかったか、親として疑問です」

「母の歯列矯正の反対は、干渉というより洗脳だったように感じます。娘の就職に関しても、私は最後は本人が決めるべきだと思っています。親世代と子の時代は考え方も常識も大きく変わっているため、親はその都度調べる必要があると思いますし、親の希望と本人ができることは違います。ましてや、就職するのは本人です。私も母のように過干渉にならないよう注意しなければならないと思いながら子育てをしています」

 眉根さんの母親は、社会的に孤立していた。

 母親は眉根さんが10歳の頃に縫製会社の仕事を辞め、それ以降働いていない。自分の実家にはよく立ち寄っていたようだが、嫁いでからも実家で我が物顔の姉を、家を継いだ弟と弟嫁はあまりよく思っていなかったようだ。妹とは実家以外でも会っていたようだが、眉根さんの歯列矯正のエピソードからも、姉を腫れ物のように扱っているのがよく分かる。

 卵が先か鶏が先かは分からないが、母親は他人の意見を聞き入れることができない性格のために親しい友人もいなかったのだろう。意見を言ってくれる人がいないから、自分の間違いに気付くこともできず、古い情報を更新できずに凝り固まった思考で生きてきたに違いない。

 しかし、母親の過干渉に悩まされてきた眉根さんを救う手立てはいくらでもあった。一番身近な父親も、母親の異常さを熟知していた母方の祖父母や叔父叔母も、眉根さんを救うことはできたはずだ。それでも救おうとしなかったのは、「子どもは母親の所有物」と思い、“他人事”としていたからではないだろうか。

 子どもは親の所有物ではない。

 所有物扱いされている子どもがいたら、身近にいる大人がいち早く気付いて手を差し伸べることが大切だ。手遅れになる前に。