Bは地元にある大学の工学部を卒業後、甲社に就職し営業課に配属された。Bの仕事は取引先企業へのルート営業で、約300社ある取引先のうち15社を7月から担当するようになった。顧客からの注文や要望に対して迅速に対応し、A課長が提案するように指示した新商品の売り上げも順調に伸ばした。明るく人なつっこい性格のBは、取引先の担当者からかわいがられ、まさに“営業マンとしてうってつけの人材”だった。
しかし、そんなBにも弱点があった。早起きが苦手で、寝坊をし、遅刻してしまうのだ。入社当初は月に1回だったのが、遅刻の回数は増えていき、7月と8月はそれぞれ月に2回、9月に入ってからは週に1回になった。A課長は当初Bの遅刻を見過ごしていたが、9月にはさすがにそれもできなくなり、遅刻したときにその場で呼び止めて厳しく注意した。
「君は新入社員にしては仕事をがんばっているし、顧客先に直行するときは問題がなかったから黙っていたけど、この頃、遅刻が多すぎるよ。出勤時間は朝の9時と決まっているんだから、ちゃんと来なさい」
するとBは、
「すみません。僕、低血圧タイプみたいで朝が弱いんです。遅刻しないように、目覚まし時計を5個セットしてがんばってるんですが……」
などと言い訳しながら謝った。そしてあわてて自席のパソコンを開き、出勤時間を入力した。
ところが、その後A課長が何回注意しても遅刻がなくなる気配はない。その様子に他のメンバーたちも「あいつ、ちっとも反省してないじゃん」とあきれていた。
10月中旬の朝。A課長の元にC専務がやってきた。
「A課長。B君はいるか?」
「彼が何か変なことでもやらかしたんですか?」
「違う、その逆だ。昨日、私の知人でもある取引先の乙社長と飲みに行ったとき、社長がB君のことを『若いのによく気が付くし、商品の追加手配も敏速。新商品の情報にも詳しいし、頼りになるよ』ってえらく褒めていた。だから、直接彼にそのことを伝えようと思ってきたんだよ」
「そうでしたか。でも、まだ会社に来ていません」
そして、Bが9月から週に1回は遅刻していること、A課長がその都度注意しても改善されないこと、他のメンバーたちもあきれていることなどを話した。すると、それまで機嫌が良かったC専務の表情が険しくなった。
「1度や2度ならまだしも、週1で遅刻するとは社会人としてなっとらん。仕事さえできれば、上司の言うことを聞かなくてもいいってもんじゃないだろう。ここはガッツリとおきゅうを据えてやろう」