説明を終えたD社労士は、話を続けた。

「例えば、営業社員が取引先に売上代金を水増し請求して、正規代金との差額を着服していたなどの場合、取引先との信用を回復するために何らかの対処が必要です。そのうちの一つが、対象従業員を懲戒処分した旨を、社内のみならず取引先にも公表することです。このようなケースだと、公表する必要性や合理性を認められやすくなります」
「じゃあ、B君の場合はどうなの?」
「Bさんの場合は、取引先に迷惑をかけておらず、職場への影響も今のところ微量です。公表すれば、たとえ氏名や所属部署の記載がなくても、従業員数からして処分を受けたのがBさんだと特定できる可能性は高いでしょう。従って、本人へ伝えるのみで公表はしない方がよいかと思います」
「分かりました」

 2日後、C専務はA課長とBを呼んだ。そしてBに向かって諭すように言った。

「君が仕事をすごく頑張っているのは認めるよ。乙社長からも、たいそうお褒めの言葉を頂いた。人事としては冬のボーナスをアップしたいところだが、遅刻ばかりしているようじゃ、アップどころかダウンだよね」
「えっ? ボーナスが減っちゃうんですか?」
「ボーナスどころか、給料だって減っちゃうんだよ」
「それは困ります」

 その後、C専務がD社労士から受けたアドバイス通りの説明を終えると、A課長も続けた。

「低血圧のせいで朝がつらいんだったら、明日会社を休んで病院に行っておいで。もしかしたら病気かもしれないからね」
「それは大丈夫です。明日から、がんばって早起きします」

 翌日からBの遅刻はなくなった。しかし……。

「B君、起きなさい。今日は10時から、乙社とアポがあるんだろ? もう出ないと間に合わないよ」

 遅刻しなくなったかわりに、出社後、自席でウトウトするようになったB。そのうち、机に突っ伏して寝てしまうことも。この日は、A課長に起こされて、あわててカバンを持ち外へ出ていった。

 そんなBの後ろ姿を見ながら、「やれやれ……」と嘆くA課長だった。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。