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1時間の昼休み。新入社員のAは、話し相手はいないし、昼食はすぐに食べ終わってしまうので、残った時間はひたすら暇つぶしをしている。どうせ暇ならその分働いて、昼休みを返上すれば1時間早く帰れるのでは?と思いついた。しかし実行したところ、上司から「1時間早く帰ったら、その分早退扱いになって給料から引かれてしまうよ」と諭されてしまった。果たして、「昼休みなしで働いて1時間早く帰宅する」は、アリ?それともナシ?(社会保険労務士 木村政美)

<甲社概要>
製造業を営み、都内郊外に本社事務所(従業員数50人)、埼玉県に工場(従業員数150人)がある
<登場人物>
A:大卒で入社した新入社員。22歳
B:Aの上司で管理課長(以下「B課長」)。40歳
C:入社以来工場勤務だったが、1年前本社に異動してきた。D部長の同僚で50歳
D:人事・総務総括部長(以下「D部長」)。会社の労務管理責任者。50歳
E:甲社の顧問社労士

話し相手もいないのに、1時間の昼休みは長すぎる

 4月3日の入社式の後、工場で行われた1週間の新入社員研修を終え、Aは本社管理課に配属された。本社の勤務時間は9時から18時までで、そのうち12時から13時までが昼休みである。

 12時になると他のメンバーたちは一斉にいなくなり、AとB課長だけが職場のフロアに残った。

「A君、私は昼休みの間ここに残るから、お昼は休憩室で食べてください」

 B課長にそう言われ、Aは昼食を持って休憩室に向かった。

 管理課フロアの向かいにある休憩室は、10年前まで事務所と工場が併設されていたため、200人の社員が一斉に集まることができるほどの広さがある。工場が移転した後、複数の長テーブルと50脚の丸椅子を残し、他の備品はほとんど取り払ったので、部屋の中はガランとしていた。事務所付近には飲食店がないため、社員たちは持参した昼食をここで食べていた。Aは部屋の端の席に座り、通勤途中のコンビニで購入したメロンパン1個と牛乳でランチを済ませると、ズボンのポケットからスマホを取り出し、暇をつぶした。

 持参したパンはいつも5分足らずで食べ終わるし、やがてスマホで遊ぶのにも退屈を覚えるようになったA。仕事の息抜きにおしゃべりがしたくても、同期は全員工場勤務なので気安く話せる相手はいないし、管理課の先輩たちもみな、一人でスマホをいじっているか、畳敷きのフロアで昼寝をしている。声を掛けると邪魔になりそうなので黙っていた。他の社員も皆同じ様子で、部屋の中は不気味なほど静かだった。それなら自席に戻ればいいのだが、部屋番をしているB課長と2人きりになるのは息苦しい。仕方なく休憩室で過ごしていたが、この時間がAにとってはとても憂鬱だった。