ベンチャー起業には
「算術の資質」も重要

 優れたベンチャー起業家の理想はこのように魅力的なのですが、実はそれだけではベンチャー起業は成功できないのが現実です。ベンチャー起業に必要なもので、WeWorkを創業したアダム・ニューマン氏に決定的に欠けていた資質が算術です。

 WeWorkが本当にフリーランサーやベンチャー創業者たちのコミュニティーとして機能するのであれば、それはWeWorkの事業収益に反映されるはずです。しかし、IPO(新規株式公開)を目指していたWeWorkの開示資料が示していたことは、WeWorkのビジネスは結局のところ、シェアオフィスの家賃収入にしか立脚できていなかったということでした。

 逆に言えば、シェアオフィスとしてのビジネス収入しかないのであれば、一等地に高額の不動産を借りてそこで無料でアルコールを提供していれば、赤字はどんどん膨らみます。日本以外のWeWorkの事業に起きていたことは、結局のところそういうことでした。

 アダム・ニューマン氏がWeWorkを追い出された一つの理由が、出資された資金をもとに高額なプライベートジェットを購入したことでした。

 そのプライベートジェットの中のオフィスでビジネス会議をすることで、確かに有力な投資家はプライベートジェットに乗り込んでくれました。アダム・ニューマン氏が生きる世界は「We」に満ちていたのです。しかし、そのことはアダム・ニューマン氏の価値を高めることにはなっても、WeWorkの収益を高めることにはならなかったのです。