孫社長がほれこんでしまったのは
アダム・ニューマン元CEOのスピーチだった
孫社長がほれこんだと言うのはWeWorkの共同創業者だったアダム・ニューマン元CEOのことです。ベンチャー起業家としても飛び抜けて魅力的で、2019年に経営者の座を追われるまでは時代の寵児(ちょうじ)だった人物でした。
アダム・ニューマン氏が率いていた頃のWeWorkの事業コンセプトは「We(われわれ)」にありました。フリーランサーやスタートアップ経営者たちがシェアオフィスでひとりで働くのではなく、「We」として働くためのプラットフォームとなる場の提供でした。だから単なるシェアオフィスの会社ではないと熱弁されていたのです。
WeWorkのオフィスは大都市の一等地にあり、オフィスである以上にそこに集うスタートアップ経営者や個人投資家、著名なフリーランサーや老練な会計士、リタイアした大企業の元役員など、人と人とのつながりがはるかに大きな価値を生む場だと定義されていました。
その象徴的なサービスが、WeWorkのオフィスではビールが飲み放題だったことです。わざわざ外部の飲食店に行かなくても、WeWorkに行けば人と出会え、カジュアルに事業の相談ができることで、WeWorkはスタートアップ起業家たちがビジネスを推進するコミュニティーになると考えられていたのです。
コンセプト的には今考えても「アリかもしれない」と思える話なのですが、絶頂期のアダム・ニューマン氏のスピーチを聞くと、アリどころかそこに存在するリアルにしか思えない話でした。その意味で、投資に失敗した孫正義社長の忸怩(じくじ)たる思いは私も理解できます。
さて、今回の記事ではWeWork破綻を期に、ベンチャー起業家としてのアダム・ニューマン氏の資質をもう一度考えてみたいと思います。
実は、彼の言動を分析していくうちに、全ビジネスパーソンが持つと得する「ある能力」が浮き彫りになったのです。