「ロマンを語れるかどうか」で
ビジネスの創出の成否が分かれる
その能力とは、「ロマンを語れる力」です。
優れたベンチャー起業家には、アダム・ニューマン氏のように理想を一般の人々にもわかる言葉で伝える能力があることは間違いなく重要です。自分が作り上げようとしているそれまでになかった新しい世界がどのようなものなのか、それを伝える力がなければ当然のことながら顧客も生まれませんし、投資家も投資をしないでしょう。
ただのシェアオフィスを始めたいとだけしか語れなければ、事業を始める資金は銀行に頭を下げて融資してもらうしかなく、融資してもらえる金額は、自分が提供できる担保の範囲内でしか得られないでしょう。
アダム・ニューマン氏は、WeWorkをシェアオフィスではないと周囲に理解させる能力があったからこそ、あれだけの巨額の資金を調達することができたわけです。
アダム・ニューマン氏に比肩するスタートアップ起業家について、評論家としてお気に入りのエピソードを紹介させていただくと、大豆ミートのベンチャーであるインポッシブルフーズのコンセプトには同様の夢があります。
他の多くの大豆ミートのベンチャーは、健康に良くて、環境にもエコな代替食品として大豆ミートを売り出そうとしています。
一方で、インポッシブルフーズが掲げるコンセプトは地球温暖化の阻止です。日本では温暖化といえばCO2が主な対象なのですが、世界全体ではメタンや一酸化窒素のような農業や酪農に起因する温室効果ガスの削減も重要です。
CO2を削減するためには長期的にガソリン車をなくしていく必要があるのですが、同様にメタンや一酸化窒素を削減するためには、実は牛肉をなくす必要があります。でも、普通に考えたらそんなことは不可能です。
しかしインポッシブルフーズによれば、その問題をシンプルに解決できる方法が一つあります。それが、大豆ミートが牛肉よりもおいしくなることです。インポッシブルフーズは牛肉のおいしさを研究して、ジャンクな大豆ミートを作り出しました。脂分が多く、塩分も多い、健康に良くない大豆ミートです。そのうえで牛肉のようにおいしくするためにはヘモグロビンがカギになることを発見し、人工ヘモグロビンの開発に成功しました。
ブラインドテストで子どもたちにハンバーガーを食べさせると、インポッシブルフーズのバーガーが一番おいしいと子どもたちが答えるところまで到達して、あとはコストが大幅に下がれば、人類が脱メタンに踏み出せるところまできたというのがインポッシブルフーズの主張です。
この話を聞くたびに、私はロマンのある話だと感心させられるのです。