全国に23カ所の歯科クリニックを展開していた(医)社団友伸會(豊島区)が2023年9月末、負債37億3370万円を抱えて東京地裁に民事再生法の適用を申請した。マウスピースを使った歯列矯正ブームを追い風に、一気に国内大手の歯科クリニックグループに上り詰めた。しかし、その原動力は患者の治療費の前金という“麻薬”だった。クリニックを増やし、患者が増えると潤沢な前金で得たキャッシュを再投資に回す好循環を生んだが、成長が鈍化するとたちまち資金繰りがひっ迫した。これまで、英会話教室やエステ・脱毛サロン、旅行代理店など、多くの倒産劇で繰り返された前金ビジネスの失敗と同じだ。成長を謳歌(おうか)した企業の裏側に潜む危うさを追った。(東京商工リサーチ情報部 増田和史)

街の歯医者さんから急成長
売り上げが3年で8倍に

友伸會が入居するビル友伸會が入居するビル(東京商工リサーチ撮影)

 コロナ禍でブームになった一つに歯列矯正がある。マスク着用で口元が隠れ、外出自粛や働き方の変化で時間に余裕もできたことが背景にあるという。歯列矯正は原則、保険適用外の自由診療で費用も高額だが、コロナ禍で思わぬ需要を生んだ。

 さらにブームを後押ししたのが、マウスピース矯正として知られる新技法の普及だ。透明なマウスピース型の矯正装置を装着し、段階に応じて入れ替えながら徐々に理想の歯並びに近づける。この矯正方法は、従来のワイヤやブラケットによる歯列矯正と比べて取り外しでき、目立たないというメリットがある。2000年代に米国で広がった技法で、日本に導入されるとその手軽さが支持を集めた。

 友伸會は2002年に個人の歯科クリニックとして創業した。当初は「街の歯医者さん」としてスタートし、保険適用の一般歯科診療が中心だった。ただ、代表は事業拡大に意欲的で、新規クリニック開設や同業の歯科医院からの事業譲り受けなどで規模を拡大し、2015年には約10カ所のクリニックを有していた。

 さらに、拡大のターニングポイントとなったのがマウスピース矯正への進出だった。2018年8月期から主力事業を保険適用外のマウスピース矯正へとシフトし、新規のクリニック開設や歯科医院との提携などを進め、マウスピース技工の専門会社も傘下に収めた。

 こうして2018年8月期に10億3377万円だった売り上げは、3年後の2021年8月期には86億3369万円へ、実に約8倍に急拡大した。マウスピース矯正の浸透に加え、コロナ禍での歯列矯正ブームの到来というタイミングの良さも重なった。グループ会社を含めた年間売上高は100億円を超え、歯科クリニックの事業規模では国内最大級で、業界大手の地位を確立した。