お掃除のダスキン、なぜミスド展開?「意味不明すぎる組み合わせ」には人間くさい理由があった写真はイメージです Photo:PIXTA

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第36回は有名企業の“意外な事業”を取り上げる。

ダスキンとドーナツの不思議な縁

 就活に倦んだ町田浩子は株式投資の視点を入り口に会社への関心を深め、身近なブランドや飲食店舗の裏側にひそむ多角的なビジネス展開の広がりに気づく。企業研究の楽しさを知った浩子は卒業旅行に向けて貯めた資金で投資デビューを果たす。

 意外な企業が意外なビジネスを手掛けているのを発見すると、面白さとともに、「なぜ?」と疑問がわくものだ。

 駆け出し記者だったころ、ダスキンの担当になって初めてミスタードーナツを同社が展開していると知り、意味不明すぎる組み合わせに戸惑った。

 ダスキンの創業者が渡米した際にドーナツのおいしさに感動したのが原点と聞くと、人間くさい理由に妙に納得するとともに、「選択と集中」とは違った経営の不思議な魅力を感じた。4年の大阪勤務の間、ダスキン本社の最寄り駅江坂に住んでいたこともあり、「ミスド」は今でも親しみを感じるブランドだ。

「レンタルのゲオ」なぜ古着?

漫画インベスターZ 5巻P29『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 最近の例では中古販売のセカンドストリートの隆盛を見るたびに、変われる企業の底力とビジネスの面白さを感じるとともに、「常識」にとらわれる危うさを反省する。

 良く知られているように、同社はゲオホールディングスのグループ企業だ。今はリユース関連のビジネスが「祖業」のCD・DVDレンタルをしのぐ柱になっている。

 2023年3月期には衣料品など「リユース系」の売上高は1308億円に達し、前期から2割近く伸びている。ネット配信に押されて縮小傾向のレンタル事業は「その他」に含まれる扱いで、売上高は369億円にとどまる。

「おもに古着を売っています」
「ふ、古着、ですか?」

 十数年前、ゲオの決算発表の席上。担当記者になったばかりだった私は「リユース事業」について質問して、その答えに耳を疑った。

 当時、ゲオのCD・DVDレンタルは1000億円規模の売上高を上げ、100億円を超える利益を稼ぎだしていた。TSUTAYAに対して生き残りをかけた「100円レンタル戦争」を仕掛けている最中に「なぜ、古着?」と困惑した。

凋落の先にある希望

漫画インベスターZ 5巻P30『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 当時のリユース事業の売上高は百数十億円程度、利益水準も低かった。

 ただ、売上高は前期比2~3割の伸びを見せ、「本業」や不動産、アミューズメントといった他の事業に比べて成長性は明らかに高かった。ゲオのIR担当者からは潜在ニーズの高さ、出店余地の大きさなど、ビジネスの将来性について説得力のある説明があったと記憶する。

 とはいえ、「レンタルのゲオ」のイメージはあまりに強かった。店舗でみかけるCDやビデオゲームの中古買取販売と比べて、衣料は畑が違いすぎるように思えた。

 個人経営の「町の古着屋」のイメージが強く、上場企業が大規模に展開するビジネスに育つのかも疑問だった。当時の私は「経営資源の分散を招くのでは」と懐疑的な見方をしていた。

 私の疑念が見当違いだったのは、現状を見れば明らかだろう。傑出した投資家なら、あの時点で今日のような大変貌を予想して、「レンタルのゲオ」の凋落の先に希望を見出していたのだろうか。

漫画インベスターZ 5巻P31『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク