「年をとると脳細胞は減るばかり」という通説は誤りだ。生き方次第で脳細胞は増やせる。最先端脳科学の新常識を探った。
人の名前が思い出せない、約束を忘れる――こんなことがあると「年のせいで脳細胞が減ったに違いない」とがっくりしがちだ。だが、これは間違った認識である。
じつは、脳についてはいくつかの誤った俗説がまかり通っている。その一つが、「脳細胞は1日10万個死ぬ」という説だ。誰の説か不明で、数字にも根拠はない。アルツハイマー病やパーキンソン病患者は別として、加齢で失われる脳細胞の数は、全体の個数からすると、わずかな量にすぎない。
「おとなになったら脳は衰える一方」という説もウソ。脳は常に回路を組み直しており、日々変化していく。使い方次第では、おとなになってからも回路を充実させ、成長させることは可能だ。
では、年をとると物忘れが増えるのはなぜなのか。
久恒辰博・東京大学大学院准教授は「原因は脳細胞が減ることでなく、一つひとつが萎えて、全体に元気がなくなること」と話す。
年をとると、脳細胞と脳細胞のあいだを飛び交う信号や刺激のスピードが落ちる。この傾向は同じ脳の回路しか使わない人ほど顕著だ。脳細胞が元気でいるためには、いつもと違う脳の回路を使ったり、新しい回路をつくったりしなければならない。要するに、「刺激」が必要なのだ。
たとえば、本や映画に感動すること。新しい仕事や自分なりの目標にチャレンジすること。変化を受け入れる「しなやかな脳」こそ、物忘れしない若い脳、ということになる。
生き方次第で脳は
「伸び縮み」する
脳の若さを測るバロメーターがある。「海馬」にある「新生ニューロン」の活性度だ。
海馬とは、脳の司令塔のような部位。情報は海馬を通って感情などをつかさどる大脳新皮質に行き、記憶として貯蔵される。
このとき海馬はストレス情報を抑え、いやな記憶を忘れさせるが、新生ニューロンはその働きを助ける。また、海馬の中にある「歯状回」の力を増強し、記憶を定着させるのも新生ニューロンだ。