雑誌の衰退が止まらない。総合週刊誌の世界で最古の歴史を持つ「週刊朝日」の休刊がその最たる例だ。「オワコン」とも称される紙の雑誌を抱える出版社はどうすれば生き残れるのか。ビジネス誌「プレジデント」の編集長を務めた自身の経験と、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏の経営手法から、サバイバル術を考えてみたい。(イトモス研究所所長 小倉健一)
『週刊誌がなくなる日』は
着実に近づいている
筆者は『週刊誌がなくなる日』という本を2022年に書いたのだが、このままの勢いでいくと「あと5年で週刊誌は消滅する」という内容を、データを基に記したものだ。
当時、ささやかな(だけど騒がしい)出版記念会を開くことになり、ゲストスピーカーとしてお招きした「月刊Hanada」の花田紀凱編集長には「本当に5年で週刊誌が消滅したらこの会を私の自腹でもう一度開き、小倉さんにおわびする」と言われた。花田さんからは、他にもご自身のインターネット番組に私をお呼びくださり、雑誌文化が無くなるはずはないという「お叱り」を計3度受けた。
週刊誌の黄金時代のど真ん中を歩いてこられたのだから、それが消滅するなどと言われてお怒りだったのだと思う。その本は、執筆当時のデータを用いた結果を書いたのだが、あれから情報がいくつか更新された。雑誌業界の状況をお伝えしていきたい。
まずは、「週刊朝日」という総合週刊誌カテゴリーでは最も歴史のある(週刊誌全体であれば「週刊東洋経済」)雑誌が2023年5月末で休刊することになった。他にもたくさんの雑誌が休刊することになった。直近の週刊誌市場の数字(23年10月1~31日、日本出版販売「店頭売上前年比調査」)だと、売り上げが前年比16.8%減と大きく落ち込んでいる。10月といえば、かつては雑誌の「手帳特集」がよく売れていたものだ。もうスマートフォンのカレンダーアプリにとって代わられてしまった。
このような市況で奮闘している雑誌編集部はさぞかししんどいと思われる。うわさレベルではあるが、有名経済メディアの一つも休刊へ向けた本格的な検討に入っているようだ。
とはいえ、週刊誌は無料のオンラインニュースに活路があるのかといえば、それも怪しい。ネットニュースの利用者、広告への出稿は共に増えているものの、メディア全体がオンラインニュースに力を入れているがために、市場は供給過多、飽和状態にある。
無料ニュースの場合、企画力とタイトルの付け方がよほど上手な編集部でないと生き残ることは難しいのではないか。その点、有料デジタルに成功している一部経済メディアは、かなりのアドバンテージを持っている。無料ニュースに注力して、弱っている他メディアを駆逐してもいいし、さらなる付加価値のあるサービスを提供する手もあるだろう。
実は、つい最近あるメディアで、どう紙媒体を立て直すかについて、自分がビジネス誌「プレジデント」の編集長をしていた経験に基づいて話をしてきた。15分程度の簡単なものだと思っていたら、そうではなくて、根掘り葉掘りの質疑応答もあって1時間も話をすることになってしまった。現場の強烈な危機感が伝わってくるものだった。
その場で、伝えたかったのは三つだ。今回は、筆者自身の編集長の経験と、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏の経営手法から、窮地に陥る紙の雑誌を抱えた出版社が生き残るすべを考えてみたい。