なお、全体的には極めて活況なVCの投資環境ではありますが、シード・アーリーフェーズでリードできるVCが少ないことを実感しており(フォロワー投資家は決まっているものの、リード投資家が不在で困っているスタートアップによく出くわします)、当面、私としてはそこにポジショ二ングする予定です。

2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて

2022年も引き続き新型コロナウイルスとの闘いは継続されるわけですが、徐々に過去の日常が戻ってきている、戻ってきて欲しいと考えています。そこで今後の明らかなテーマは「ハイブリッド」になると考えます。小売りにしろ、サービスにしろ、BtoBにしろ、オンラインとリアルを組み合わせた、新しい体験や付加価値創造が求められ、さまざまな起業や投資機会が生まれると考えています。

次に、セクター単位で見ると、ヘルスケア・医療・介護、教育、防災、モビリティなどの準公共分野に注目しています。従来、当該セクターは、規制やITリテラシーの問題、変化を好まない業界体質などにより、起業も少なく、投資家が避けがちな領域でした。一方、前述した産業の構造改革の必要性、デジタル化・DX化の気運は、準公共分野にも着実に押し寄せていると考えています。今後多様なスタートアップやVCが当該セクターにチャレンジし、社会をより良く進化させていくことを切に願っています。

また、日本にとって避けられない構造的な問題として、労働人口の減少が挙げられます。この問題を解決できる、HR領域のテーマ(生産性向上、人材の最適配置、新たな労働力の確保など)にも引き続き注目しています。その周辺──たとえば、メンタルヘルスなどの領域にも広く目を配りたいと思っています。

最後に、個人的に長らく追っている、住宅・建設・不動産領域にも投資ができたらと思っています。

ANRI ジェネラルパートナー 鮫島昌弘

2021年のスタートアップシーン・投資環境について

「人新世」が変えるスタートアップ/ベンチャーキャピタル

11月に閉幕したCOP26では「石炭火力の削減」や「気温上昇を1.5度以内におさえる」といった基本的な点のみならず、世界約450の金融機関が今後30年間で100兆ドル(約1.1京円)を脱炭素に投じると宣言しており、人類がこれまで自らの豊かさのみを追求してきた時代から、これまで人類が地球に与えてしまったダメージ(本質的な課題)を自ら解決しなければならない、人新世の時代に入ってきたと感じています。

最近のPwCのレポートでは、世界の気候変動・環境問題を対象にした、いわゆるクリーンテック分野のベンチャー投資が加速しており、昨年対比で約3倍、2021年上半期では600億ドル(約6.6兆円)、全ベンチャー投資に占める割合では14%を占めるまでに拡大してきています。しかしながら、ソフトウェア領域が多く、直接的に二酸化炭素の吸収に繋がる技術への投資がまだまだ不足していることが課題として挙げられています。