ファンドのLP(出資者)もこれまでANRIが運用してきたものでは機関投資家が中心だったが、新ファンドではエネルギー系の事業会社などからも資金を集める計画。すでに関西電力グループであるK4 VenturesがLPとして参画している。

グリーンファンドの概要は以下の通りだ。

  • 運用期間:12年間(最長3年間の延長可能)
  • 投資対象ステージ:主にシード期(創業期)
  • 予定している投資社数や1社あたりの出資額 : 10〜15社程度に対して、5〜10億円を想定 
  • 投資領域 : 太陽光/風力、蓄電池、水素/アンモニア、CCUS/DAC、人工光合成/核融合など
  • LP(ファンドへの出資者) :  産業革新機構、K4 Venturesなど

特に研究開発型の場合、ソフトウェア系のスタートアップと比べてもJカーブ(成長までの曲線)がかなり深く、利益が出るまでに長い期間を要するものが多い。

ANRIでも数年前からディープテック領域の投資に取り組んできたものの、投資先を検討するにあたって「Jカーブをものすごく深く掘るような領域は、今の自分たちのファンドの設計では難しいのではないか」という議論もあったそうだ。

そのためディープテックの中でも「比較的事業の立ちあがりが早いものや、エグジットまでのルートがはっきりしている創薬のパイプラインなどを中心に始めていこう」という考えのもと、投資を進めてきた。真剣に議論をした結果「その領域に対する情熱はあるものの、今の枠組みでは投資ができない」という結論になることもあり、もどかしさも抱えていたという。

「『気候変動のど真ん中にヒットするような挑戦』を支援することは誰かがやらなければならないけれど、従来のVCのルールではなかなか難しいということも痛切に感じていました。ここにトライするためには、テーマを特化するかたちでファンドを設計し直す必要がある。そのような考えが今回の取り組みにもつながっています」(佐俣氏)

シード期のスタートアップは事業領域や事業モデルを転換(ピボット)することも珍しくないが、研究開発型のスタートアップはその難易度も高い。

「特定の研究に振り切ってJカーブを掘って行った結果、思い描いていたように技術検証や資金調達が進まず会社が存続できなくなった」というようなことも想定されるが、グリーンファンドではこうしたスタートアップを対象に投資をしていく方針。佐俣氏も「誤解を恐れずに言えば、15年経った時に(技術検証や追加の調達も終えて)ちゃんと立っているのは2社くらいかもしれない」と話す。

そのような会社に対して、機関投資家から集めた資金を元手に1社あたり数億円〜10億円を投資するというのは簡単ではない。既存のファンドと切り分けて新たなファンドを作った背景の1つには、そのような理由もある。

加えて「この分野はスタートアップが技術のブレークスルーを起こしても、単独で簡単に事業化できるわけではない」(鮫島氏)ため、LPの構成自体も既存ファンドとは変え、事業会社などからも資金を集める。