タレント個人のソーシングには限界がある

FIREBUGの設立は2016年2月。当初は30秒動画サービス 「30(サーティー)」を展開していたが、途中から現在のタレントのデジタル化支援の事業にピボット。これまでに、お笑いコンビ・よゐこや菊地亜美といったタレントなど著名人のパートナーとして、デジタルを起点としたIP開発・ビジネスモデル構築を支援してきたほか、いきものがかりを始めとするアーティストの活動プランニング、戦略に基づくコンテンツの企画・制作、ビジネス開発の支援などをしてきた。

タレントや芸能事務所のデジタル化を支援してきたFIREBUGが、なぜ新たにファンドを立ち上げることにしたのか。FIREBUG代表取締役CEOの宮崎聡氏はエンターテインメント業界の課題をこう口にする。

「日本のスタートアップ・エコシステムはエンジェル投資家やVC、CVCなど、資金の出し手が増えたことにより、この10年ほどですごく整備されてきたと思います。一方、日本のエンターテインメント業界に目を向けてみると、次世代のエンターテインメントをつくっていくような企業に資金がまわる仕組みがありません」

「ここ数年、タレントたちの活躍の場はテレビからInstagram、YouTube、TikTokなどのSNSに変わってきています。その流れはさらに加速し、今後ますますエンターテインメント業界でもデジタル化の重要性が高まっていくでしょう。そうした変化を踏まえたときに、エンターテインメント業界の第一線で活躍してきた個人や企業が、次世代のエンターテインメント業界を担うような企業に投資や支援を行う仕組みが必要だと思ったんです」(宮崎氏)

エンタメ業界特化のファンド、FIREBUGが設立──田村淳氏、槙野智章氏などが出資
 

海外では、エンターテインメント業界の第一線で活躍してきたセレブがスタートアップに投資することは当たり前と言っても過言ではない状況になっている。

例えば、俳優のレオナルド・ディカプリオ氏はスニーカースタートアップの「Allbirds」や代替肉の開発を行う「Beyond Meat」に投資している。そのほか、俳優のアシュトン・カッチャー氏やプロテニスプレーヤーのセリーナ・ウィリアムズ氏はファンドを立ち上げ、数多くのスタートアップに出資している。

もちろん、日本にもそうした動きがなかったわけではない。田村淳氏はネットショップ作成サービスのBASE、プログラミング学習サービスのProagateに投資しており、歌舞伎役者の市川海老蔵氏は応援購入サービスのMakuakeに投資している。そのほか、プロサッカー選手の本田圭佑氏が2016年に自身のファンドKsk Angel Fundを立ち上げ、エンジェル投資を開始し、2018年には俳優のウィル・スミス氏とDreamers Fundを立ち上げている。